GDS2(MTGのデザイナー公募試験)の過去問を解くシリーズ、第二回。
前回かこちら↓
今回は論述問題の問3に取り組もう。
3.クリエイティブともっともよく融合したデザインに仕上がっていたのはどのブロックだと思うか。
また、そのブロックをより良くするために、何をすることができたと考えられるか。
ここでいうクリエイティブは「クリエイティブ・チーム」のことである。
世界観、背景設定、ストーリー、アートなどがクリエイティブ・チームの担当だ。
言い換えればこの問いは「フレーバーがカードのデザインに影響を与え、カードもフレーバーから良い影響を受けたブロック」を聞かれている。
ブロックと言うのは今は存在しないのだけれど、昔のマジックでは2つから3つの拡張パックセットを合わせたものをブロックと呼んでいた。
同じブロックの間は基本的に同じ次元(異世界)を舞台にしていて小説の上中下巻のように物語を表していた。
さて、この問題への私の答えはこうだ。
豆猫さんの答え3
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「タルキール・ブロック」
キーワード能力が多すぎて混乱を呼んだので変異の亜種であるメカニズムをこのブロックに取り入れたのは少し余計だった。
ブロックの中の各セットで変異・大変異・予示が「似ているが違うメカニズム」として出てくる。
似ていることがプレイヤーの理解の助けになるとされたが、実際には覚えることが余計に増えている。
クリエイティブの「ウギンと無色の要素」をうまくカードデザインに融合させられなかった部分だと言える。
予示と大変異を取り除くか、そもそも裏向きメカニズムを使わないでおくべきだった。
それからテイガムを伝説のクリーチャーとしてデザインしなかったこと。
最終ブロックにテイガムを入れることで元カンのサイクルを各氏族の伝説のクリーチャー・サイクルとしても受け取れるようにし、歴史改変でテイガムが伝説のクリーチャーに「出世」する変化を描けたはずだ。
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捕捉
問題には理由を説明せよ、でなく「よりよくする方法」だったのでこう答えたが
問題文の用語やタルキールを知らないものにはちんぷんかんぷんだろう。
ここでいうクリエイティブは「クリエイティブ・チーム」のことである。
世界観、背景設定、ストーリー、アートなどがクリエイティブ・チームの担当だ。
つまりこの問いは「フレーバーがカードのデザインに影響を与え、カードもフレーバーから良い影響を受けたブロック」を聞かれている。
さて、フレーバーとうまく合わさったセットというのはいくつもあるが
フレーバーとブロックが最もよく合わさっていた(つまり上中下の構成全てにおいてよく合っていた)となれば
僕の答えは「タルキール・ブロック」三部作だろう。
大まかな背景設定はこうだ。
タルキールは「かつてドラゴンが暮らしていたが今は絶滅した世界」だ。
5つの氏族が時にぶつかり合いながら生きて覇を競い、
それぞれの氏族は「ドラゴンの特徴・部位」を1つシンボルにしている。
例えば龍の迅速さを表す翼をシンボルにするマルドゥ族や
龍の狡猾さを表す眼をシンボルとするジェスカイ道の僧侶たち。
龍の忍耐強さを表す鱗をシンボルとした砂漠の民、アブザン家。
ストーリーの骨格は主人公サルカンの時間旅行だ。
主役であるサルカンはドラゴンに憧れるプレインズウォーカ―だ。
彼はこの世界の現代人で、過去のタルキールにいた龍の祖、精霊龍ウギンに導かれてタイムスリップする。
プレインズウォーカーのための『運命再編』案内|読み物|マジック:ザ・ギャザリング 日本公式ウェブサイト
過去の世界は「人と龍が争う世界」であり、ある出来事をきっかけに龍が劣勢となり人は龍を滅ぼした。
その出来事にサルカンが介入したことで歴史は変わり、彼が現代に戻ると…
タルキールは「龍が覇権を握る形で人と『共存』する世界」へと変化していた!
タルキール(『タルキール龍紀伝』)|次元|マジック:ザ・ギャザリング
タルキール・ブロックの物語|読み物|マジック:ザ・ギャザリング 日本公式ウェブサイト
なぜこれが上手く融合していたのか?
3セット(上中下)を「龍のいない現代」「過去、歴史改変」「龍のいる現代」の3つに割り当てたのだ!
それぞれのカードデザインもよくできていたが、それらを他の2つと比べるのは非常に興味深い。
第一セットで伝説のクリーチャーを描いたカードがあり、第三セットで同じキャラクターが『再録』される。
だがそれは歴史改変により、もはや同じカードではない別のカードになっていた!
氏族の長であったズルゴはドラゴンが長である世界では臆病なおっさんに過ぎない。
また第二セット(過去)では滅んだはずの伝説の龍が出てくる。
そして第三セット(改変後現代)まで生き残りエルダー・ドラゴンとなっているのだ!
あるいは変わらない存在もある。
このイエティは人と龍の歴史が変わろうとも同じままだ。
ああ、でもフレーバーテキストによるとどうやら強さは変わらずとも「人の脅威」から「龍の餌」に変わったようだ。
タルキールは非常によく「3セットで1ブロック」という構造をフレーバーに合わせている。
フレーバーをうまく表した「セット」はいくつもあるが「ブロック」規模でフレーバーと融和しているのはタルキールが一番優れていると私は思う。
だがフレーバーを意識する余り、やり過ぎてしまいセットレベルではカードデザインをゆがめている部分も否定できない。
例えば第一セットに出てきた「変異」というのはMTGでは珍しい「カードを裏向きで場に置く」能力の再録だ。
そして過去の世界ではこの変異は精霊龍ウギンの使う無色魔法を基にした「予示」という形で存在し、改変後は変異が新たなものになったことを表すために「大変異」となった。
結果的にこのブロックには「裏向きでカードを出すメカニズム」が3種類もあることになる!
はっきり言ってややこしいことこの上ない。
そしてメカニズムを歴史の中で変化させる理由もない。
3セットで常に変異であってもクリエイティブの考えるウギンと無色のつながりは描けるのだ。
プレイヤーに負担を与える「微妙に異なる3つのメカニズム」を出すくらいなら、
それらは同じ1つのものにすべきだった。
「時代と共に変わる」というフレーバーに注目しすぎたのだ。
変わらないものも描いたのだから変わらずに使い続けるメカニズムがあってもいいのだ。
ただブロックを通して変異を使った場合の懸念もある。
プレイヤーがこのブロックは「変異がテーマだった」と勘違いする危険だ。
変異は第一セットで扱わないか、そもそも変異はこのブロックに本当にふさわしいか検討すべきだった。
それから最後に、細かいが大きな点として僕はこのストーリーにおける脇役のテイガムが好きだ。
彼はジェスカイ陣営を裏切りスゥルタイ群へと鞍替えした男だ。
だが歴史改変に伴い裏切る理由が消えた。
改変前のジェスカイにあたるオジュタイ氏族の学者たちの長にまで上り詰めた。
テイガムの○○という呪文は改変前と改変後にそれぞれ存在し、それぞれテキスト欄に所属陣営の透かしが描かれている。
だがテイガムのクリーチャー・カードはない。
その上、第三セットにはとある伝説のクリーチャー・サイクルがあるのだが、
よりにもよってテイガムの陣営が「欠け」ている。
この欠けはテイガムの師であるナーセットが伝説のクリーチャーでなく「プレインズウォーカ―」になってしまったためだ。
テイガムのカードを創れば…
「ナーセットを含めた元カンのサイクル」「5枚の伝説のクリーチャーのサイクル」
プレイヤーはどちらとも受け取ることができたと思う。
というわけで大きく分けて改良可能なのは2点
・変異周りはクリエイティブとの融合がうまく行ったとは言えない。
→変異の亜種を取り除き変異のみにするか変異ごとブロックから取り除くべきだった。
・テイガムのクリーチャー・カードがない
テイガムというキャラクターとナーセットのクリーチャーカードを作れなくなることをもっと早く知るべきだった
→もし知ることができたならテイガムのカードをデザインする十分な時間があっただろう。
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解答と補足は終わり。
ここからはカードデザインの時間だ!
というわけでテイガムをデザインしよう。
実をいうとタルキール・ブロックではない場所でウィザードとドラゴンの構築済みデッキが存在した。
この時に「改変前のテイガムと改変後のテイガムを同時に作ったらクールじゃない?」ということが行われている。
なので既にテイガムのカードは存在するが、これは私がテイガムを入れたかった枠にそのまま入れることができない。
というわけで、もし私がテイガムをこのセットに加えるなら…というデザインにする。
デザイン上の制約は以下の通り。
・それは改変後のテイガムである。
・それは青単色のクリーチャーである。
・それは氏族のメカニズムと関連している。
・このセットには《テイガムの一撃》が存在するのでそれと関連付けたものにしたい。
・急な変更なのでイラストは他のカードに割り当てられたものを動かす。
さて、まず最初に考えるべきは「氏族のメカニズムとの関連」だ。
サイクルの他のカードは全員氏族のメカニズムを持つが、
テイガムの所属する氏族のメカニズムは「反復」だ。
ルール上、反復を持つことができるのはインスタントかソーサリーなので
テイガムは反復を持てない。
考えられるのは3パターンである。
・それは「反復」のように機能するクリーチャーである。
・それは反復を支援する。
・それは反復から恩恵を受ける。
4パターン目として実際の「改変後テイガム」が持つ
・それは反復を与える も考えられるがこれはダメだ。
なぜなら《オジュタイの達人、テイガム》は反復がない場所で登場した。
一方でこれからデザインするカードは反復と同時に収録される。
反復を持つカードに反復を追加することは可能だが「何も起こらない」
追加のもう一回ができるわけではないのだ。
つまり反復デッキを楽しむプレイヤーへのボーナスにふさわしくない。
そしてなにより同じセットで神話レアがやってしまっている…。
エキサイティングな能力は特別だからこそエキサイティングなのだ。
同じことをするカードがあるとせっかくのナーセットの特徴が失われてしまう。
逆にテイガムの側としては既にこのセットにあるカードと同じだがより派手な動きをさせるべきだ。
さて、注目したいのはこのカード。
これは反復とは書いていないが反復に支援されるカードだ。
ふむ。テイガムにこの能力を与えつつ、より攻撃的で伝説らしい派手なものにしよう。
まず修整値を大きくする。《テイガムの一撃》が+2/+0とブロックされないを与える。
素晴らしい!ではテイガム自身も+2/+0とブロックされないを与えよう。
それから最後にダメージを与えた時のボーナスを与えることにしよう。
青には戦闘ダメージを与えたらカードを1枚手に入れる能力や、
墓地からインスタントやソーサリーを回収できる能力があり、
反復呪文はすべてインスタントかソーサリーである。
ならばダメージを通したら反復呪文を墓地から回収しよう。
《テイガムの策謀》ともシナジーすることになる。
「反復呪文を唱えるたび」と「果敢」やそれに類する能力を持つカードが同時に存在すると計算が面倒であることがわかった。
誘発条件を他と揃えるために緩和し…それだと+2/+0は強すぎるので+1/+0に抑えよう。
よし、それではまた次回。