あけましておめでとうございます。
新年1発目の記事に相応しい話題は何かとか悩んで「新年はあえてブログ更新なしとかでいいのでは…」とまで考えていました。
しかし1月1日からテーロスの日本語版カードプレビューが出てDiscoでルールの挙動の話題が出ました。
だらだらとDiscoに長文を垂れ流した後で「これ記事にまとめるか…」と思ったので新年早々MTGのルールの話から始めようと思います。
さて、本日紹介する『テーロス還魂記』の新カードはこちら…
《アショクの消去》です。
うわ、気持ち悪いテキストがアショクらしくて気持ちいいな。
さて、ではこのカードが何をするか。
「呪文1つを対象とし、追放する」とはどういうことだろう?
通常、唱えられた呪文は「スタック領域」という場所に置かれる。
遊戯王とかをやっている人には若干わかりづらいかもしれない。
MTGでは遊戯王の「チェーン」に該当する処理を行うフィールドが定義されているんだ。
ざっくり言うと「手札と戦場の間の空間」のイメージだ。
(あくまでイメージ、空中にカード置き場があるわけではないし、出発地が手札でないことも行き先が戦場でないこともある。)
MTGアリーナをやっている人にはもう少し説明しやすい。
一度に複数の能力が誘発したときや、呪文の打消しの時に画面右に漫画のコマのようなものが重なるのを見たことはないかい?
あそこが「スタック領域」だ。
さて、《アショクの消去》が戦場に出た時の誘発能力は、この「スタック領域」にある呪文を追放領域へと移動させる。
この時、元の呪文はどうなるのか?
元の呪文は解決されることはない。
スタックとは解決待ちの呪文や能力が列になって並んでいる場所であり、
《アショクの消去》はそこから強引に呪文1つを列から追い出すのだ。
追放することで打ち消しに似た効果を得られるが打消しと言う言葉を使っていないのもミソだ。
《思考のひずみ》のような打ち消されない呪文であっても、《アショクの消去》は止めることができる。
《アショクの消去》が戦場を離れる時に、追放した呪文は相手の手札へと帰っていくのだが…実はここにちょっとした悪夢的な裏技がある。
さて、次のような状況を考えて見よう。
対戦相手は《思考のひずみ》を唱えた。
これは青いデッキでは死ぬほど通したくない呪文だ。
《思考のひずみ》がスタック領域にいる間にこいつを処理してしまおう。
アショクは《アショクの消去》を唱える。
(通常、エンチャントは他の呪文が唱えられている間に唱えることはできないが瞬速を持つ場合は例外的に可能となる。)
《アショクの消去》はスタック領域にある《思考のひずみ》の上にのる。
スタック領域はとても狭いので後から来た呪文や能力は元からスタック領域にいるものの上に積みあがっていくんだ。
そしてスタック領域の呪文や能力は上から順番に解決される。
ずうずしくも後から出てきた《アショクの消去》が先に解決され戦場に出る。
ここで《アショクの消去》の「戦場に出た時」の誘発が行われる。
《思考のひずみ》が今か今かと解決を待つスタック領域に「戦場に出た時の能力」が上から落ちてくる。
ターゲットは自分の下にいる《思考のひずみ》に定めた。
さあ、ここでアショクは突然インスタント呪文を唱えだした。
その呪文は《分散》だ。
《分散》の対象に《アショクの消失》を選ぶと奇妙なことが起こり始める。
《分散》を解決し戦場から《アショクの消失》が手札へと帰る。
この時、《アショクの消失》のもう1つの誘発型能力が誘発する。
そう、「戦場を離れた時」の方だ。
えーっと何々。追放した呪文を返してあげるのか…。
ふむ。追放した呪文をねえ…。
ところでまだ《アショクの消失》は呪文を追放していないのに気付いただろうか?
つまり今スタック領域はこうなっている。
上から順に…
1.《アショクの消失》が追放した呪文を返す。
2.《アショクの消失》が呪文を追放する。
3.《思考のひずみ》
これを上から処理するとどうなるか。
まず「返すものがない」ので一番上は何もすることなく処理が終わる。
次にようやく《思考のひずみ》が追放される。
最後に《思考のひずみ》が…おっと、追放されたのでもうここにはいない。
というわけで《思考のひずみ》は追放されたまま帰ってこなくなるんだ。
は?
こういった「何かを追放する誘発」と「それを返す誘発」を一気に引き起こして、
返却する方を先に解決し、「『無』を返却する」という挙動が取れるカードがマジックには存在するんだ。
直感的には不満だらけだがルールが厳格化されることで生まれてしまった法の抜け穴のようなものだ。
昔、こういった挙動をとるナイトメア・クリーチャーがいくつか存在した。
時代の流れの中でこういった奇妙なトリックが行われないようにテキストは整備されていく。
例えば以前にテーロスを訪れたときに登場し、今回《アショクの消去》と同時に収録される再録カード《払拭の光》を見てみよう。
こちらは追放する能力の上から別の呪文で戦場からどかした場合、そもそも対象は追放されない。
これはかつてのナイトメアたちは「場に出た時の能力」と「場を離れた時の能力」の2つを持っていたのに対して
《払拭の光》は「場に出た時の能力」の中に返却することを織り込んだことでルール上の悪夢的な挙動を避けたんだ。
ではどうして《アショクの消去》はルール整備された最新のテキストになっていないのだろう?
僕はこれはウィザーズなりの遊び心だと思っている。
アショクは悪夢を操るプレインズウォーカ―だ。
Nightmareというのはマジックの種族名であるのと同時に「悪夢」を意味する英語でもある。
かつてのナイトメア・クリーチャーたちの持つ「バグを内蔵した」能力を敢えて使うことでアショクというキャラクターの悪夢を司る性質を表現しているのだろう。
マジックのカードはそのカード自身が描くフレイバーからはみ出してマジックのカードとして「文脈」をもつ。
そう言った文脈を利用することで、関連する新しいカードを「文脈」にのせることができる。
マジックが紡いできた歴史があるからこそより魅力的に描ける世界があるんだ。
今年も、こういったカードの豆知識めいたコラム記事を書いて行ったりルールやデザインの話をだらだらすると思います。
本年もこのブログをよろしくお願いいたします。