昨日、一昨日は『テーロス還魂記』のプレリリースでしたね。
皆さんは楽しみましたか?
プレリリースが終わればもうすぐ正式発売!
さて、そんな『テーロス還魂記』の話題でちょっと気になったことがひとつあります。
それは《半真実の神託者、アトリス》がやたらと《嘘か真か》と比較されることです。
いや、たしかに似てるし、元ネタの元ネタだけどさ!
これ《嘘か真か》じゃなくて、《偏った幸運》でしょ!!
みんな、一体どうしたんだよ!
《偏った幸運》のこと忘れちゃったのか!
フライデーマジックプロモにもなった《偏った幸運》だよ!
恐らく、答えはシンプルだ。
「忘れるも何も、そもそもそんなカード知らないよ」
「はい。忘れていました」
というのが大半だろう。
仮に覚えていても「Etbでプチ《偏った幸運》する伝説のクリーチャー!」と評するより、超強力カード、《嘘か真か》を引き合いにしたほうが話題に勢いがつくという理由でそちらを引き合いにだしているのだろう。
分かりやすさ、大事。
とはいえ、同じくらい事実に即して考えるのも大事だ。
このカードは《嘘か真》かではなく《偏った幸運》に近いカードなのだ。
ところでこれは、マローがテーロス還魂記で語った話なのだけど…
ビル・ローズ、マイク・エリオット、そして私が配分カードをデザインし、そしてランディは《嘘か真か》を気に入ったのだ。
これは素晴らしいスパイク向けカードであり、ランディは超スパイクだったのだ。それの使われ方を楽しんだ彼は、パワー・レベルを上げ、そしてこのカードは最終的に印刷された時に非常に強力になったのだ。
このカードは非常に多くプレイされるようになり、ランディがそうであったように、スパイクのお気に入りになったのだ。
その好評を受けて、何年にも渡ってこのカードは多くのデザインの元になり、その中には《半真実の神託者、アトリス》も含まれる。
《半真実の神託者、アトリス》が持ち込んだ新しい変更点は、その束の1つを表向きにして、ブラフをかけるための要素の1つとして組み込んだということである。
私にとって、これは最終的なセットで最も楽しくプレイしたカードの1枚である。
引用:死出|読み物|マジック:ザ・ギャザリング 日本公式ウェブサイト
マローまで《偏った幸運》のことを忘れている…!
実は《偏った幸運》の収録された『異界月』ではマローはあまりデザインに関わっていないんだ。
通常、デザイン・チームは週に2回会議を行うので、私はそのうち1回だけ参加していた。
私はチームの直面している課題と、それにどう取り組んでいるかを把握するために必要なだけは参加できるようにしたのだ。
それと、数枚のカードはデザインした。
引用:月を超えて その1|読み物|マジック:ザ・ギャザリング 日本公式ウェブサイト
何があったかと言うと、この時期にパックの作り方が大きく変わっていた。
複数パックを跨いで1つの世界を語るやり方に大きな変化が起きていた時期だ。
3パックを費やし、上中下3部作の物語を描くのをやめて前編と後編に短縮することで物語のテンポを上げたり、それに伴ってスタンダードで使えるカードの範囲にも影響があった。
とにかく色々なことが目まぐるしく動いていたんだ。
だから彼が覚えていないのも仕方がないのかもしれない。
さて、ではこの《偏った幸運》がプレイヤーに覚えられていた強力なカードだったかというと…
あんまり多くは見かけなかった。というのが正直なところだ。
一応、公式のデッキ紹介記事で「地雷デッキ」に採用されているのを見つけた。
基本的にパーツをかき集めるための《パズルの欠片》の5枚目以降として採用していることが多い。
あるいはプレインズウォーカ―を多く使うコントロールではパズルの欠片に代わって若干使われることもあったらしい。
しかし、全体的に言えば《嘘か真か》と違い、《偏った幸運》は超強力なカードではなく、使われなかった。
さて、では《半真実の神託者、アトリス》を《偏った幸運》と比較して考えていこう。
まず真っ先に気になるのは枚数だ。
《偏った幸運》は4枚を2つの束に分ける。
一方で《アトリス》は3枚を2つの束に分ける。
分ける前のカードの総枚数が減っているね。
これはもしかすると《偏った幸運》より弱いかもしれない。
《偏った幸運》は時に大きな駆け引きが生まれる。
相手がカードを「裏向きの1枚」と「表向きの3枚」に分けた場合を想像してみよう。
相手が裏で伏せたのはよっぽど使われたくない1枚だろうか?
それともブラフ(引っ掛け)?
枚数の多い方をとるべき?
一方でアトリスは3枚しかめくらないので総枚数が少ない。
「1枚」と「2枚」に分けられたとして、
「2枚」を取った場合に得られるカード枚数が少ない。
じゃあアトリスの方がアドバンテージエンジンとして弱いのだろうか?
いいや、そうではないんだ。
カードの「総枚数」が少ないからアトリスの能力は《偏った幸運》よりも弱い。
しかし、アトリス自身は使い捨ての《偏った幸運》と違って場に残るのだ。
つまりアトリスは「3枚を2つの束に分ける」のではなく、本質的には4枚を2つの束に分けるカードだ。
「アトリス」と「ライブラリーの3枚」の4枚を、
「表」「裏」の2つの束に分けたうえで、
「選んだ方」にアトリスを加え入れるとも見ることができる。
こうして見ると《偏った幸運》に比べて「最低値」が底上げされているカードだと分かる。
「表の2枚」「裏側の1枚」を提示された時、
強力な切札だと思い「裏側の1枚」を選んだが《沼》だった!
まんまと引っ掛けられた!
その場合でもアトリスは「3/2威迫」のクリーチャーと土地1枚が手に入る。
確かに2色4マナの対価として3/2威迫は弱いかもしれない。
それでも戦闘面で無視できるほど小さなサイズではない。
リスクのある選択を取っても最低値保証がされているのがアトリスの強みだ。
《偏った幸運》に比べて、アトリスはこれから見かける機会が多くなるカードだろう。
使う側、使われる側。
どちらにも駆け引きをしかける要素がある。
友人や行きつけのカードショップなどで「いつもこういう選び方するな」と思われてからが本領発揮かもしれない。
ここぞという時に選び方の癖を意識して変えれば見事に裏をかけるだろう!
おまけと言う名の本編
Q.アトリスを使われた時の分け方、使ったときの選び方を教えてください。
A.私にもわからん。練習あるのみ。
とはいえ自分の中で内面化しているルールを言語化するのに良い機会なので一応書いてみる。
アトリスを使われてカードを分ける時
アトリスを使われた場合に、分けることになるパターンは以下の4通り。
表の束 裏の束
3枚 0枚
0枚 3枚
1枚 2枚
2枚 1枚
・表3裏0
・表0裏3
基本的に選ぶことはない選択肢だがルール上は適性であるということはあまり知られていない。
総合ルール700.3d
束は0個のオブジェクトからなっていてもよい。
当然アトリス側は3枚を取るだろう。
このパターンを選択する貴重な例がブロールのような多人数戦だ。
多人数戦では「対戦相手」は必ずしも「敵対的」を意味しない。
少なくとも短期的には…。
あなたとアトリスを使うプレイヤーが手を組んでいるなら、対戦相手を選ぶ段階で声をかけてあげよう。
「Hey! Shall I make pile with no cards?」
(へい! 僕に「カードなし」の束を作らせてくれない?)
基本的には裏3を選ぶことになるが、表3であれば卓全体に対して「何を渡したか」を知らせることができる。
ただし、長期的には同盟相手も最後に潰すべき敵になることだけは忘れないように。
もちろん1vs1ブロールでは0枚の束を作るべきではない。
・表1:裏2
・表2:裏1
基本的に分ける場合はこの形になる。
「このカードは裏、これは表」のように決めていくのでなく、
まず裏向きの2つの束に分けてしまい、どちらの束を表にするかを決めるのがよい。
束分けの定石
一般的な束分けカードの定石として「強いカードを同じ束にしない」ということが言われている。
例えばカードの危険度を★1~★5で評価するとして、
めくったカードが「★5、★4、★1」だったとする。
この場合、「★5、★4」「★1」の束に分けてはいけない…ということだ。
強いカード2つの束を取られてしまえば極めて不利に近づく。
★5と★4は別の束にしよう。
★1はどちらと組み合わせる?
これを考える上で「正解」は存在しない。
これが《思考を築く者、ジェイス》の〔-2〕であれば、「正解」は「★5」「★4、★1」だ。
しかし《偏った幸運》や《半真実の神託者、アトリス》ではそれが正解かはわからない。
カード束を裏返すことで、そこにはブラフの要素が出てくる。
例えば「★5」「★4、★1」以外のパターンを考えてみよう。
と言っても定石を守るなら他のパターンは「★5、★1」「★4」しかない。
《思考を築く者、ジェイス》でこんな分け方をしたなら、相手は2枚ある方を取って満面の笑みを浮かべるだろう。質も良くて量も多い。
しかし「★5、★1」を裏にしたなら…?
アトリスを使った側からはこう見える。
「★4」「★?、★?」
★4は最高の辺りではないが十分に当たりのカードだ。
枚数の多い方でなく★4を取ることは大いにありうる。
なんなら定石を崩してしまったっていい。
「★5、★4」「★?」と出されてノータイムで前者を取れるプレイヤーは少ない。
「え? どうしてその2枚が固まっているんだ?」
「もしかしてその1枚はよほど良いカードなのでは?」
疑心暗鬼にかられた相手が★1を取ったなら…大成功だ!
だから分け方に「正解」は存在しない。
とはいえ「正解はないよ」だけでは記事にわざわざ書く意味がないので自分が選ぶときの基本の指針を示しておく。
束分けに正解は存在しない。
だが、リスクヘッジを図ることはできる。
「★5、★4」「★?」で★1を引かせるのはとても気持ちいい。
しかし目論見が外れた場合に相手は「★5」と「★4」を合わせて入手できる。
かなり大きなアドバンテージを相手に与えることになり、こちらが巻き返すのは難しくなるだろう。
「一番痛い選択肢」を取られたときの痛手を抑えるためには「★5」「★4、★1」と分けるべきだ。
どちらを裏にするかは好みの範疇だ。
僕なら★5を裏側にして「★?」「★4、★1」とするだろう。
一番嫌なカードが3枚の中に存在するという情報を秘匿しておくためだ。
アトリスを使う時
さて、分け方には正解はない一方で、取る方には正解が存在する。
例えば先ほどの「★5」「★4、★1」の例なら★5を選ぶのが正解である。
(★4、★1の方が枚数が多く良いカードも手に入るから正解とは限らないとか難癖をつけられる時のために先回りして行っておく。★1のおまけがついたくらいで覆る程度の差なら、そのカードの危険度は★5ではなく★4なので危険度の見極めが間違っている)
しかし「正解」はあるが「確実な正解の選び方」は存在しない。
裏向きのノイズは常に正解を選ぶ思考を邪魔する。
そして「相手も自分と同じように考える」とは限らない。
例えば「★2、★1」「★?」の場合、
?の中身が★1なら正解は表側だ。
?の中身が★5なら正解は裏側だ。
答え合わせはできても「正解の選び方」はない。
参考までに自分の指針を挙げるなら…
個人的な指針としては★5、★4が見えていれば表を取る。
★2、★1しか見えてないなら、裏向きを取る。
★3が開示されているなら枚数の多い方を取る。
言語化すると、こんな感じの基準になると思う。
★5、★4クラスは当たりだ。
もう一方が大当たりなら、もう一方が「正解」になる。
…しかしそれは「束選びを間違えた」だけだ。
束選びを間違えることで「アド損」は生まれない。
「★4」「★?、★?」で★4を選び、裏向きの束が「★5、★5」だったとしよう。
君は間違った方を選んだということははっきりしている。
だが、それがどうした?
あなたは4マナを支払い3/2威迫を場に出し、★4カードを手に入れた。
それで充分じゃないか。
「もっと正しい選択肢がある」ということで、選んだ選択肢の相対的な価値が落ちるからと言って、そのカードの相手への脅威度は★4のままなのだ。
逆に★2、★1しか見えていない場合はどうだろう。
この場合はリスクをとって見えていない束を取る。
脅威度が高い場合は当たりだ。
逆に脅威度が低い場合はハズレだが…その場合、そもそも3枚すべてが相手にとって脅威ではなかったことになる。
3枚全部が脅威度が低いのは「よほど運が悪かった」「そもそもあなたのデッキには脅威度の低いカードばかりが入っている」
自分の構築に自信を持つなら、裏側を取るべきなのだ。
もし運が悪かったのなら、アトリスは十分な仕事をした点は評価してあげよう。
あなたがこれから3ターンかけて引く「カス札」をデッキトップから排除してくれたのだから。
★3までが見えている場合。
ぶっちゃけこれが一番難しい。
そもそもカードの脅威度を考えるための情報として、相手の頭で考えていることと自分の考えていることが同じとは限らない。
相手が「見せ札」として選んだ★3の価値が高いカードとして選らんだのか低いカードとして選んだのかさえ確証はない。
こういう時はいっそのこと表か裏かではなく枚数の多い束を取っていくことにしている。
カードそのものの価値だけでなく、カードの枚数にも価値があるからだ。
いやまあ、この基準の一番信用にならないところはここで、
「脅威度を★1~★5とした時」の脅威度は目に見えているステータスじゃあないし、状況次第で《垂直落下》の脅威度は変わる。
そこはもう練習するしかない。
色んなデッキと戦って何度もアトリスを使って覚えるしかない。
最初に書いたように練習あるのみだ。