やあ、バーチャルVtuverの豆猫さんだよ。
今回の記事は小説の布教記事だ。
布教したいのはSFと童話を絡めた短編集、
『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』!
この作品はいわゆる「三題噺(さんだいばなし)」の形を取った短編集である。
「三題噺(さんだいばなし)」とは「お題」を3つ決めて、それらを作中に組み込んで物語を作る落語の芸。
『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』でも同様に、3つのお題を使った短編が6作品 収録されている。
「三題噺(さんだいばなし)」のお題はタイトルの通り。
すなわち
「トランスヒューマン」
「ガンマ線バースト」
「童話」
SFにあまり興味がない人は最初の2つは知らない言葉かもしれない。
「トランスヒューマン」
トランスヒューマンはざっくり説明すれば「人の肉体を捨てて進化した人類」である。
自分の脳みそを電子的に再現したバックアップを作り、寿命に捕らわれることなく不死の存在にになったりするなど、人間のくくりを大きく超えた種族がトランスヒューマンだ。
SFなんかで「脳みそ以外をすべて機械に変えたサイボーグ」がでてくることがある。
そのまま脳みそまで機械化してしまったのがトランスヒューマンだと思えばいい。
(元となる人間の脳みそがあるという点でロボットとは異なる)
「ガンマ線バースト」
ガンマ線バーストは「宇宙で起きる『なんか凄い爆発』」くらいの理解で大丈夫だ。めちゃくちゃな密度の星が衝突して爆発したものとか、そういう事情は全部無視してもOK。
ガンマ線バーストを受ければトランスヒューマンの体はあっという間に消し飛んでしまうだろう。ただし、脳みその電子的なバックアップが生きているならば、トランスヒューマンはそこからまた容易に復活できる。
つまりトランスヒューマンにとってガンマ線バーストは「無視できないほどに深刻な突発的な大災害」だけど「電子脳さえ無事なら致命的ではない」くらいのものである。
「童話」
前述のSF用語に詳しくない人が飲み込みづらい要素を包み込んで飲み込みやすくするエッセンスとして、それぞれの短編は童話をベースに作られている。
シンデレラを基にガンマ線バーストによりガラス化した降着灰に覆われた地球の惨状を絡めた「地球灰かぶり姫」などのタイトルが並ぶ。
タイトルのセンスで言えば、
さるかに合戦を基にした「《サルベージャ》VS甲殻機動隊」が群を抜いていると私は思う。
どれも非常に面白いので是非読んでほしい!
…とまあ無難な話をしたところで、
ここからはちょっと「狭い界隈」に向けたアピールをさせてもらいたい。
いわゆる「バンブーエルフ」の話で盛り上がれる界隈の人に、この小説が届けばいいなと思ってわざわざ布教ブログを書いている。
収録されている短編のひとつにかぐや姫を基にした「竹取戦記」と言う話があり、
これがもう本当に面白いバンブーSFなのだ。
いまのようなむかしのような不思議な時代、竹取の翁というものがいました。
野山に押し入り竹をとっては、いろんな用途に供していました。
竹は炭素でできています。カーボンの筒を高く伸ばし、地面の熱で暖められた空気を根元から取り込み。上昇気流を中に通して、マイクロタービンを回してはエネルギーを取り出すのです。
早川書房、著:三方行成『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』収録「竹取戦記」より冒頭部引用
「知性化された竹林」に入り竹を取る「トランスヒューマンの竹取翁」と謎の知性体「カグヤ」の交流を描いた短編は、ついうっかり『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』であることを忘れて真剣に読みふけり、緩くなった涙腺が涙をこぼすほどに面白かった。
いやほんと、キャラが立ってて読んでてSF以外の部分、血のつながってない翁とカグヤの家族愛とかにぐいぐい引き込まれる。
ベースの童話の要素をひねる発想力と、短編ながらも(短編だからこそ)魅力的なキャラを短い文でも立てることができる筆力。
胡乱な与太話の民がバンブーエルフを1カ月以上話題にし続ける2年も前に、これだけ良質なバンブーSF短編があったのかとうならされること間違いなしです。
シンデレラをモチーフにした「地球灰かぶり姫」がこちらから全部読めるので、
これを書ける作者のバンブーSFに興味が湧いたらぜひ購入してください。
お値段が気になる方には軽くて安くなった文庫版もあるので、
そちらもぜひ検討してみてください。
トランスヒューマンガンマ線バースト童話集 (ハヤカワ文庫JA)