はじめに
あなたは「人生で何度も読み返す本」と出合ったことがありますか?
自分が折れそうになった時に支えになったり情熱にもう一度火を付けてくれたりする、そんな手紙や本が僕の部屋の本棚の一番下にスペースを取っています。
最近、仕事を惰性でこなし手を抜きはじめていた自分に喝を入れてくれる情熱の着火剤としてこの本を棚に加えます。
というわけで、今日は小説の布教記事となります。
なんだか少し布教が前面に出て、話が脱線したような気がします。
改めて紹介していきましょう。
『それでも、あなたは回すのか?』(あな回)は、いわゆるお仕事モノの作品です。
就活で失敗しまくり、唯一受かったソシャゲ運営の会社に就職した「業界のことは右も左も分からぬ素人」の成長物語となっています。
お仕事モノの楽しみのひとつが普段、何気なく生活の中で消費している商品やサービスがどのような裏方仕事の上に成り立っているのかを知れるという点があります。
『あな回』は題材としてソシャゲを扱っているので、普段遊んでいるソシャゲがどんな感じで動いているのかを覗けるワクワク感と驚きが味わえたのが面白かったです。
またお仕事モノのもうひとつの楽しみ方として「仕事に向けるモチベーション」を補充してくれる点も挙げられます。
ある種、実用書的と言うか仕事に向き合うときの心構えに変化をもたらしてくれたり、失っていた情熱を取り戻すきっかけを与えてくれます。
『あな回』は特に後者の側面がとても強く、何度でも心折れそうなときに読みたいと思えるラストで締めくくられていました。
購入時に予想した『面白さ』を100ポイントとすると、実際にラストシーン手前まで読んだときに感じる面白さは80ポイントくらいしかありませんでした。
すこしカタルシスの物足りなさがひっかかってしまい、
その時点では「まあ、それなりに面白かったんじゃない(上から目線)」みたいな態度で感想を書くつもりでいました。
しかし、ラストシーン(無料公開版66話)でそれまでに感じていた物足りなさを作品の側から突っついてきたことで僕の中で一気に『あな回』の評価が面白さ300ポイントに跳ね上がった。
オタクはこういう気持ちを表すときにすぐ5千兆点だの巨大な数時を使うので300というポイントは低そうに思えるかもしれないが、それだけ話を盛らずに真面目に自分の中での作品評価が予想を2回り上回る傑作だったのだ、そう受け取ってほしい。
このラストシーンの熱さは当分忘れないだろう。
それでももし、仕事に疲れてまた僕が情熱を失ってしまった時にこの本を開くと思う。
ラストシーンから刺激を得るために。
それでも、あなたは回すのか(新潮文庫)
良い話のようにまとめた後で
で、本題に入ろう。
この記事のタイトル。
「着火剤でなく爆薬」という話について。
この小説はお仕事モノの例に漏れず、やるきの着火剤となる要素が含まれている。
しかし、その刺激の与え方が結構強めなんだと感じた。
これを読めばかつて持っていた僕の中の仕事への情熱が戻ってくる。
そういう思いで僕は「何度も読み返す棚」に『あな回』を加えたけれど、
もし自分がこれを読んでも翌日の仕事に情熱を燃やせなかったとき、多分僕は自分自身をすごく嫌いになってしまうだろう。
そういう諸刃の危険性もこの作品からは感じた。
やる気の着火剤と呼ぶには少しばかり過激で危険なもの。
今の僕にとって、(つまり20代の社会人にとって)情熱を取り戻す回復ポーションになる一冊で…
もし疲れ切ってこれを読んでも情熱を取り戻せなかった時に、自分はとてつもないダメージを背負う毒でもあると思った。
落としてアゲていく読後感はそういう危険と紙一重のバランスで成り立っていて…
だから、この本は爆薬と呼ぶに値すると自分は感じた。
誰かの人生を変える本が、他の誰かの人生を変える本でもあるかは分からない。
それでも僕にとって…主人公の姿は等身大の20代として自分を重ねて読んでしまう雛鳥で、その巣立ちを見るのは最高のカタルシスを得られた。
明日からまた仕事を頑張ろうという活力も得られた。
でも逆にこの「活力」を得られないままラストだけを味わってしまえば多分僕は死にたい気持ちになってしまうに違いない。
そういう危険を孕んでいる小説なので、ぜひまずは無料で読んで感触を確かめて…
あなたにとって、今の僕と同様にこれがやる気の起爆剤となったのなら…ぜひ購入して紙の本を手に取ってほしい。
全文無料公開(おそらく期間限定)に踏み切るまでに、編集の高橋裕介さんはきっと悩まれたことでしょう。
でも、それでも…勇気をもって無料公開した。
読後に感じる想いが情熱か諦観かで大きく変わりそうな題材をフェアに無料公開して、面白く読めた人たちに手に取ってほしいという望みを託すのはいささかギャンブルめいていると思う。
そのギャンブルに勝って、そしてできることなら続巻を期待したい。
飛び立った2羽の雛鳥が、向かい風の中で大空を飛ぶ姿を見たいのだ。
周回遅れのランナーが、先人を追い越す雄姿を見たい。
でもきっとそれは『あな回』以上の劇薬になるだろう。
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