最近、MTGの話題に偏りすぎているけれど当ブログは総合的に趣味のものについて書いていくブログだという当初の方針に立ち返って久しぶりに読書感想記事です。
今回 紹介したい本はこちら…!
ハヤカワSFコンテスト(第8回)優秀賞を受賞した傑作、『電子の泥船に金貨を積んで』です!
9月9日(水)、第8回ハヤカワSFコンテストの最終選考会が東浩紀氏、小川一水氏、神林長平氏、小社編集部長・塩澤の4名により行なわれ、(略)
竹田人造(たけだ・じんぞう)氏の『電子の泥舟に金貨を積んで』が優秀賞に決定いたしました。
第8回ハヤカワSFコンテスト〈優秀賞〉『電子の泥舟に金貨を積んで』ですが、著者・竹田人造さんとの激論の結果、
— 奥村勝也 (@kokumurak) 2020年10月15日
『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』
に改題します。略称は「#10億ゲット」です。現金輸送車を狙い、違法カジノから奪い、マフィアを出し抜く、テクノ犯罪SF。11/19発売。 pic.twitter.com/q19HZYEKRc
ドウシテ…ドウシテ…?
いかにも「早川書房のSFっぽいタイトル」だったのに、
かなりタイトルの雰囲気が変わった本作。
発表当時は私も結構、いやかなり否定的に思っていました。
しかし、書影の発表・試し読み公開でこのタイトル変更を好意的にとらえられるようになりました。
その書影がこちら…!
人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル (ハヤカワ文庫JA)
いかにも怪しげなアロハのおっさん五嶋(ごとう)とスーツ姿の男、三ノ瀬(みのせ)…!
この2人が人工知能(AI)技術を使い大金をめぐって大立ち回りを演じるクライムSF!
バディもの! 男と男の関係性!
リアルな「嫌な奴」感が凄いライバルとの対決!
しっとりしたタイトルの「泥船」から連想されるようなAI最先端に乗り遅れた日本技術者の悲哀とそれでも一筋の光をその中に見る…そう言った側面も、この作品にはあります。
あるのですが、作者のクライムコメディ趣味による影響が全体を通しては強く出ていて、一番最初読み終えたうえでの感想は「思ったより動く」でした。
そんな映像作品を見た時のような感想を本に対して抱くのもおかしな話ですが、
「AI技術者の戦い」という言葉から連想されるような「カタカタカタ…ッターン!」みたいな雰囲気とか、あるいはもっとリアルで泥臭い作業のシーンなどよりも、
『アクション』のシーンが多く、脳内で小説から組み立てる映像が動くこと動くこと!
主人公の怪しげな相棒、五嶋(ごとう)が映画趣味であり、たびたび自分たちの犯行を映画化する話題を切り出し、主人公三ノ瀬(みのせ)もだんだんそこに思考がひきずられていく。
これにより描写のアクション・エンタメ色が強く、掛け合いの会話もおもしろく…
ええ、作者の竹田人造さんには少し悪いけれど
「このタイトルは改題して正解だったかもしれない」と感じました。
いや、どうなんだろう…?
正直、未だに私はこの10億ゲットのタイトルを上手く呑み込めてはいないんですけど。
それでも、編集の人が改題しようとした意図みたいなものは、本文を読んでなんとなく感じ取れました。
どんな お話?
感想文記事なので感想だけ書いてここで終わってもいいと言えばいいんですけど、
せっかくなので布教を兼ねて『電子の泥船に金貨を積んで』もとい『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』の物語について触れていきましょう。
舞台は?
未来の日本。
技術が発展しつつも、それほどガラっと世界が変わっているほどではない。
そんな少し先の未来。
イメージとしては現代日本の延長戦のまま「民間の一般人」にはそれほど大きな影響はなく、金をかけられる銀行やセキュリティ・カジノ施設などで実用化された世界。
3億円事件で「大金を輸送する人の心には魔が差す」という教訓を得て、高額の現金輸送に自動運転の特殊武装車両”ホエール”が使われるようになるなど、僕らの生きる現実よりも未来的。
でもサイボーグとかが町を闊歩しない程度には今と地続きなぐらいの「少し先」の話だ。
話の導入
主人公 三ノ瀬(みのせ)は連帯保証人として借金を抱え、ヤクザに内臓を売り飛ばされそうになっている哀れなAI技術者。
そんな彼を救ったのは映画好きでアロハシャツに身を包む怪しげな男 五嶋(ごとう)
彼は現金輸送車”ホエール”を狙う計画をヤクザに提案し、協力者として三ノ瀬(みのせ)を仲間に引き入れる。
こうして現金輸送車襲撃の片棒を担がされることになる三ノ瀬(みのせ)だったが、襲撃事件はこれから巻き起こるクライムアクションの口火に過ぎなかった____
面白かったところ
AI技術者である三ノ瀬(みのせ)のライバルとして現れるかつての仲間。
白スーツに銀縁メガネのスキンヘッド男、九頭(くず)。
こいつが魅力的な敵キャラなんだ。
もう凄く嫌な奴なんだけど、その嫌な奴の解像度が高い。
指摘されたくないところや間違いをズバズバ切り込んでくる天才技術者。
嫌な奴なんだけど、技術的・科学的に正しいのは九頭(くず)の方。
うーん、これこれ。技術者はこういうのに弱いのだ。
単なるライバル・敵役としてでなく彼のAI技術への想いとか内面に踏み込んだ描写が彼を魅力的なキャラにしている。
また繰り返しになるが、
「AI技術者の戦い」という言葉から連想されるような地味さとは違い、
『アクション』のシーンが多く、脳内で小説から組み立てる映像が動くこともこの小説の魅力で、視点人物を切り替え、主人公たちだけでなく相手側の視点にカメラを向ける様はまさに「クライムコメディ映画」っぽい作りでハラハラドキドキする。
主人公バディの軽妙な掛け合いも映画的だ。
編集者さんがタイトル変更を行う理由として挙げたという
「タイトルと作風の印象を近づけるため」「ダサめのヌケ感を与えるため」
引用:https://note.com/takedajinzo3/n/n8033eaf4bbf6
という狙いは、読み終えた今となってはなるほどと頷くばかりだ。
ただ、ただそれでもなお。
やはり作者のつけた『電子の泥船に金貨を積んで』というタイトルが背負っているものもまたこの小説からは染み出している。
例え、日本のAI技術が最先端から取り残された沈みゆく電子の泥船だとしても……
その泥船を作る砂場が、技術に挑む誰にでも開かれたものであれば……
『電子の泥船に金貨を積んで』…改め『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』
どん底に落ちた主人公の人生逆転クライムアクションコメディ。
面白い小説でした。
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