あなたはもう『かくて謀反の冬は去り』を読みましたか?
読んだのであればこの記事は読まなくて大丈夫です。
TYPE‐MOONの武内社長が推した審査員特別賞作品という圧倒的な宣伝アドバンテージを持って世に出た古河絶水(こが たえみ)のデビュー作です。
数々の有名なライターが本作の持つ独自の世界観を高く評価し感想を書いている中で、
弱小シナリオライターである私が筆をとる意味があるのかと気おされてしまうのですが、
それでも敢えて偉大なる先達の感想に食らいつくのであれば、
緻密な世界観を褒めたたえる感想ばかりがあふれ、解説あるいは布教・宣伝のために本作の世界観をかみ砕いて説明する人のなんと少ないことか!
この記事では”武内崇の推し”である『かくて謀反の冬は去り』について、
勢いで買ったはいいものの未読で積んであったり、まだ買っていないという人に向けて、
致命的なネタバレを避けつつ他に類を見ない本作の世界観とそこに生きるキャラクターを紹介することで布教していきたいと思います。
世界観
『かくて謀反の冬は去り』の舞台となるのは奇妙な発展を遂げたifの日本です。
作中では常に「王国」とのみ呼ばれ国の名前が明示されることは最後までないのですが、この記事では日本であると断言させて頂きます。
事の起こりは100年ほど昔、主人公の祖父の時代に起こります。
いわゆる大和朝廷、邪馬台国より少しあと、古墳とかあった頃の未開の文明は海を渡ってきた近代文明帝国によって物凄い速度で発展していきます。
そして実際に物語の舞台となる現代においては金持ちは自動車に乗り、空は戦闘機が、海には軍艦が、遠隔地とも電報でやりとりができるほどにまで発展します。
しかし急速な発展の波に人々の意識まではついてこれません。
大王を中心として有力な豪族たちがそれを支える政治の形や、下々の者の大王を神と同一視するかのような視線は大和朝廷のそれと変わりません。
大日本帝国と大和朝廷が混在する様をイラストに落とし込んだごもさわ先生のイラストが素敵ですね。
キャラクター
この歪な架空の日本を舞台として『かくて謀反の冬は去り』はつづられます。
主人公は現国王の弟、奇智彦(クシヒコ)。
生まれつき身体に障害を抱えていて左の腕と脚を満足に動かせない彼は、知恵を絞り王権をめぐる陰謀の渦中を生きのびようともがきます。
彼の人生を大きく変えるのが「帝国」より送られた熊皮を被った女奴隷との出会いです。
奇智彦(クシヒコ)によって荒良女(アラメ)と名付けられた熊皮の女奴隷は一見野蛮な未開の部族の人間ですが、彼女の出身はこの地よりも格段に文明の進んだ帝国(の田舎)であり、むしろ彼女の方が「王国」の文化レベルの低さに驚くインテリという捻りがなんとも面白いキャラクターです。
荒良女(アラメ)の訪日によって動きだした王権をめぐる陰謀劇の中では家族であっても……いや家族こそ信用ならない王家の人間の争いが奇智彦(クシヒコ)を待ち受けます。
そんな彼が心を許せる数少ない相手が幼いころより共に育った従者の兄妹。
インドの血を引く褐色の肌が特徴的な栗府(クリフ)一族のふたりは奇智彦(クシヒコ)にとって家族よりも近しい存在です。
ストーリー
この小説は主人公の兄である大王の死のシーンから始まりますが、
すぐに物語の時系列は三週間戻り、大王存命の折り、主人公奇智彦(クシヒコ)に近衛隊長官の地位が与えられたところから改めて語られます。
帝国から送られた熊皮の女奴隷との出会いや栗府(クリフ)一族のふたりとの関係など読者にとって必要なキャラクター同士の関係性やそのキャラがどう動きどのように魅力的なのかを3週間かけて描き読者に示します。
そして文庫の半分ほどまで読み進めると時間が冒頭の大王の死に追いつき、ここから次の大王をめぐる陰謀劇が加速します。
果たしてこの激動の中、奇智彦(クシヒコ)は生き残れるのか?
それが物語後半の宮廷サスペンスの軸となります。
これが、賞賛の声ばかり飛び交いなかなか未読者に広まっていない『かくて謀反の冬は去り』の世界観やストーリーです。
ありきたりなテンプレものの設定に飽きて何か独特な味わいのする作品を読みたいと願うのであれば、あなたはきっとこの本を楽しめるでしょう!
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