バーチャルVtuver豆猫さんの与太話

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【宣伝】『三体』のすゝめ【海外SF】

『三体』は「巷で話題」と言うには一押し足りないが、すくなくとも界隈ではもはや「隠れた名作」などということは はばかられるような、「話題の傑作」だ。

既にこのブログでも何度か記事を書いている。

 

omamesensei2.hatenadiary.jp

 


改めて今回紹介する本について。
先ほどから『三体』という言葉を繰り返しているのが、その本のタイトルだ。
あまりにもシンプルな名前なのでTwitterのTLなどで見かけても書籍タイトルだとは気づかなかったという人もいるかもしれない。

 

しかし今、あなたは『三体』を書籍名だと認識できるようになった。

さて、この『三体』という小説は実はその筋では非常に知名度の高い作品だ
世界中で話題…とは言ってもハリーポッターなどのようにお茶の間の話題に上がるタイプではなく、
実際、自分の周りのリアルの友人の間では一度も名前が挙がったことはない。


一方で、TwitterではSF作家関係のアカウントで何度も興奮して語られるタイトルであった。

つまるところ「万人受けしないがコアな層に刺さる作品」に分類される。


ただ読んでいる感想として、三体は若干ながら「コアな層」よりもう少しだけ大衆寄り…
つまりライト層でも楽しめるような作品に「近づいている」と思えた。
(あくまで程度の問題であり巨視的には「万人受けしないがコアな層向け」であることは踏まえてほしい)

 

何故、今『三体』が話題なのか?

 

この作品。驚くことに10年以上前の小説
それが何故2019年の日本で話題になりはじめているのか?

 

つまるところ、言語の壁の問題だ


雑誌掲載時に「コアな層が盛り上がっただけ」である『三体』はその後の単行本化で一躍、中国では話題の作品として盛り上がったそうですが…
当たり前のことながら中国でこの小説が書かれた時の言語は中国語

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中国語の小説が世界で流行るには言語の壁を超える必要があります。
とはいえSF作品の翻訳は非常に大変です。
科学的な言葉はその国で教科書に載るようなちゃんとした言葉っぽく訳したいし、
作中の造語はそれらになじませつつ原文のニュアンスを組んだ言葉として新たに訳す必要もあるとなればなおのことです。

 

結局、5年の歳月を経て、『三体』は英訳されて…


2015年にヒューゴー賞を取り…ああ、こういう堅苦しい説明はいらないだろうし、
興味があればいくらでもネットで調べられる。

 

第一、僕はそれまでヒューゴー賞という賞のことも知らなかったというのに、
それを取ったから『三体』は凄いのだと語ることに何の意味があるだろう?

 

とにかく。とにかくだ。
5年の歳月を経て翻訳された『三体』英語版『 The Three-Body Problem 』は再び脚光を浴びる。

英語圏の人が読めるようになり新たな読者層に届くようになった。

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そしてそれからさらに5年経った今年、ようやく日本にも『三体』は上陸したのだ。

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というわけで「そんな世界的に凄い作品」がなんで10年も日本では見かけなかったのか? という疑問の答えが言葉の壁だとわかってもらえたら、いよいよ本作の魅力に迫ろう。

 

三体』って どんな小説?

 

三体』はシリーズ三部作1作目にあたる。

現在は1冊目である『三体』のみが翻訳されているが、
続く『黒暗森林』も来年には日本語版が発売されるので問題なし。
(三巻に関してはまだアナウンスされてないと思うのでみんな買って応援してネ!)


この巻だけでもそれなりに1つのお話が終わるものの、
全体としてはやはりまだ起承転結の起。


これから壮大な物語・時代のうねりがどう動くかはわからないままに終わる。
…と書いてしまうとなんかまとまりが悪く思えてしまうな。

 


ラストに向けて絶望的な脅威を示し主人公たち科学者の心をへし折るような展開から、
学はないが現場は歴戦の警官が彼らを叱咤し、逆転のきっかけを与え終わるので、
読後感自体は「尻切れ」ではなく「これから逆転開始…!」みたいなあおり文の少年漫画感があって悪くない。

 

ストーリーは?

 

この物語の語り手は2人
言ってみればダブル主人公だ。

 

ただし、バディものというわけではない

2人は同じく中国に住む科学者だが、年齢も離れている。
1人は過去に中国で実際に起きた『文化大革命』の頃の女性研究者、『葉 文潔』(イェ・ウンジェ)
もう1人は現代を生きる、最先端のナノマテリアル技術の開発者の男性、『汪 淼』(ワン・ミャオ)

2人の物語は最初は別々のものではあるが、汪淼(ワン・ミャオ)と年を経た葉文潔(イェ・ウンジェ)が出会い物語が結びつく。

 

ふむ。構造的なことでなく、もう少し物語に寄せて説明しよう。

 

章の順序としては葉文潔(イェ・ウンジェ)が先に出てくるが、ここでは汪淼(ワン・ミャオ)に焦点を当てよう。

 

ある日、ナノマテリアル研究者の汪淼(ワン・ミャオ)のもとを警官と軍人が訪れる。

 

なんでも優秀な科学者の連続変死事件が起きている。

 

事件と言うとこの話がミステリのように思えるかもしれないので先に警告しておくと、これはSF小説だ。


謎解きをしようとするのは自由だけれど、そうやって読んでしまうと「わかるか、こんなの!!」とお門違いな怒りをぶつけることになる。
念を押しておこう。これはミステリじゃない
ノックスの十戒とかそういうのは守る必要も義務もない(別にミステリだって十戒を守る義務はないけど)

 

だいたいノックスの十戒を引き合いに出すなら「中国人をだしてはいけない」とかいうアレに1ページ目からひっかかるしね。

 

とにかく分かってほしいのは三体はSFなので、この自殺はミステリーではないということだ。
なにかトリックがあって自殺に見せかけて死んでいるのではない。
彼ら研究者は本当に死んでいる。

なぜ彼らは自殺していくのか?
ある女博士の遺書には『物理学は存在しない』という言葉が残されていた。


果たして遺書の意味するところは…?

という感じで始まり、主人公のひとり汪淼(ワン・ミャオ)は、この不思議な『事件』に関わっていく。
起こる出来事は「現実にはありえそうにない」ことばかりで、この話の強いSFっぽさはこちらのパートで特に際立つ。

一方、もうひとりの主人公である女博士、葉文潔(イェ・ウンジェ)の話は彼女が若いころ、つまり過去の中国で実際にあった『事件』である文化大革命についてから始まる。

 

こちらは一転して地に足がついた感じで、過去に現実に合った悲劇を描く。
そこから「怪しげな研究をする中国の施設」というこれまた変なリアリティ(フィクションでのあるあるネタみたいな意味)のある部分から
汪淼(ワン・ミャオ)の関わる現代の『事件』へのつながりが生まれていく。

 

三体』はミステリーではない。
ミステリーではないが『事件』を描いたものだ。
壮大な『殺●●事件』だ。

 

なんだって?
いったい何が殺されるっていうんだ?
人か? 動物か? 組織か?

いいや、殺されそうになっているのは…『科学』だ。

 

どういうことなのか?
それは…流石に本編を読むしかないだろう。

 

幸運なことに日本語版では『科学を殺す』と言う部分についての導入無料で読むことができる。


こちらのサイトで日本語版三体』の発売を記念して、4章から一部、発売前に先行公開されている。

きみは現代中国SFの最高峰『三体』をもう手にしたか? :『WIRED』日本版 先行公開(前編)|WIRED.jp


すでに発売した今も、ここでは無料で公開中だ。

4章からと聞くと変に思うかもしれない。

しかし1-3がダブル主人公のひとり、女博士葉文潔(イェ・ウンジェ)の章なので、

4章から読めば現代のナノマテリアル研究者『汪淼(ワン・ミャオ)』のパートの最初から読める。

加えて言えば私が過去記事に書いたように4章から読む方が三体は読みやすい。

詳しくは過去記事参照↓

 

omamesensei2.hatenadiary.jp

 

 

 

4章からの無料公開分を読、み気に入ったら『三体』を買って読んで欲しい。


とはいえ、やはりネタバレに配慮した「おもしろいよ」アピールには限界があるな。

 

なのでこの先はネタバレありです。

 

ネタバレが嫌!ってひとはブラウザバック…いや、ネタバレを気にするってことは読む気になってるってことですよね?
はい、Amazonのリンクを置いておきます。

 

 

 

今のところ買う気がない人ネタバレを気にしない人
この先のネタバレありの、僕の感想つきのあらすじを読んで、
三体すげー!!」と思ったら是非、購入して本文を読むことを検討してほしい。

それじゃあ、
ネタバレ部分が嫌いな人の目に留まらないように少し改行を挟むね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


ネタバレOK?


それじゃあ、ここからはネタバレありで『三体』の話をしていくよ!

 

えっとどこから話そうかな。
言いたいことはいっぱいあるんだけど。
うん、まずはやっぱり『事件』の犯人についてから触れていこう。

 

せっかくネタバレ解禁しているし、この本は推理小説じゃあないので、
犯人について書き始めるほうが分かりやすいからね。
というわけで発表しまーす!

 

犯人は…

 

犯人は…

 


犯人は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『宇宙人』です。


三体』は宇宙人との「静かに始まる戦争」を描いたSF作品なんです。


さて、ここでタイトルについて説明しよう。


タイトルの三体は数学の「三体問題」から取られています。


お互いに影響しあうような重さを持った3つの点について運動方程式を立てて動きを予想するルールが見つけられない…というのが「三体問題」です。

 

一見シンプルな「3つの物体があるだけ」の状況でも、
それら3つが互いに影響を及ぼしながらどんな動きをするのかはめちゃくちゃ予想しづらいんです。

予想しづらいというか…ぶっちゃけていうと現在の数学の理屈では「三体問題は解けない」というのが定説です。

 

なんていうか「問題を解くのに十分な条件が揃っていない」ことになっているんだ。
パーツの欠けたパズルを完成させることができないように、三体問題も基本的には解けない。

 

で、物理の授業を受けたことがある人は分かると思うんだけど、
「ただし、○○は××とする」っていう条件が問題に加わると解けるようになる。

 

例えば「地球」「月」「太陽」の3つがどんな動きをするか


「ただし、地球と月に比べて太陽は非常に重いものとするみたいに条件付けしてやることで
「足りないピース」が埋まり解けるようになる。

 

これはどちらかと言えばクイズに答えを確定するヒントを加えるようなものかもしれない。

問題 

?にひらがなを一文字入れてできる言葉は何でしょう。

「 あ ? る」

 

この問題の答えが「開ける」なのか「アヒルなのかはわからない。

しかし「ヒント:鳥の名前です」と付け加えると、「アヒル」が答えだと分かる。

 

あくまでたとえ話だが三体問題はこの「ヒント」がない場合のクイズなので
もしかしたら答えは「浴びる」かもしれないし「飽きる」かもしれない。

 

あくまで「鳥の名前」という制限があって初めてこの問題は解ける。

 

条件。それは太陽が地球や月よりずっと重いからだ。
文字通り桁違い…どころではない…6桁くらい違う。

 

じゃあ、もし…十分に重い星が3つあったら…?

 

先ほどの「ただし、地球と月に比べて太陽は非常に重いものとするという条件がなければ…?

それは「解けない三体問題」になってしまう。

 

 

本作の宇宙人「三体星人」たちが済む星がまさにその「解けない三体問題」に苦しめられている。
彼らの世界は「十分に重い星」が3つあるんだ

 

そう、つまり彼らの星には「3つの太陽」が存在する。
太陽Aと太陽Bと太陽Cはそれぞれが互いに十分な重さを持った星だ。

 

故に三体星人たちには「季節がどう移ろうか」なんて予測がさっぱり建てられない。
だって太陽がどんな風に動くかの法則が全然見いだせないんだ。

 

ある時は太陽から離れすぎて世界は極寒の地となり、
ある時は両側から太陽と太陽に挟まれて夜が訪れない高温の世界になってしまう。

 

あまりにも過酷なこの地で三体文明は滅亡と復興を繰り返してきた。

そんな彼らがあるきっかけから地球の存在を知ってしまった。

「は? 太陽が1つだけ? それめっちゃ過ごしやすくない???」

画して三体文明は新天地を求めて地球侵略を決意する。

 

とはいえ互いの星はあまりにも距離がある。
お互いの距離は光の速さでなお8年はかかる。

三体人は惑星規模で移住をしようとしてるので、流石に光の速さでの移動はできない。
地球に彼らが来るまで450年以上はかかる。

 

450年。


それは長く、短く、そして長い。

絶望的な環境の星系から侵略しにこようと思えるほど短いが、とても長い。
地球人類の技術の進歩スピードは最初はゆっくりしたものだったが、
ここ十年での技術の飛躍はとんでもない。

450年も猶予があれば地球の科学が三体星人の超科学力を上回る可能性は十分にある。

 

そのため三体星人は自分たちがたどり着くまでの技術爆発を阻止するべく、地球人のカ科学発展への妨害活動を始める。
それこそが「科学が殺される」ということだったんだ。

 

科学を殺すために三体星人がとった作戦は2つ。
そのうちの1つが「ある特殊な発明」を利用したものである。
そこで三体星人は「ある特殊な発明」を利用して「地球の科学の発展」を押しとどめようという工作活動を始める。

そちらについて本編を読んでいただくとして…
もう1つの作戦についてはこれからネタバレしていこう。

 

さて、自分たちよりはるかに優れた力を持った三体星人と戦うんだから、
地球人類は手を取り合って対宇宙戦争の準備を進めて一致団結…するわけがないんだよな…人類…

人類はおろかなので、内ゲバが始まるんだ。
この愚かさ…内ゲバっていう言葉が本当にしっくりくるんだよな。

内ゲバっていうのは「内部ゲバルト」の略だ。
暴力を意味する「ゲバルト」からの派生語だ。

雑な説明になるけど「革命側が権力側に暴力すること」くらいのニュアンスなのがゲバルト。
で、内ゲバは「同じ革命側なのに考えの違いから味方側に暴力を振るうこと」を指してる。

地球側として協力すべきなのに、科学者を襲って殺してる奴らが地球の中にいるんだ。

うーん。やはり人間は愚か。
いや、愚かなのは実際には「科学者を襲う人たち」ではない。

そもそも「科学者を襲う人たち」は明確に「三体星人側」について地球を敵に回しているので、
そういう意味では勢力が違うので内ゲバではないとも言える。

じゃあなんで内ゲバがしっくりくるのか?

ことの発端は中国の過去の歴史の話になる。
文化革命と呼ばれる事件のせいで多くの知識人が内ゲバの犠牲になり死んでいる。

理性的な知識が爆発的な感情と暴力に屈して多くの科学者の命が失われた。

そこから生まれた「人類への不信」が地球内の「三体星人側勢力」を生み出してしまうまでを描く
「裏のパート」こそが女主人公、葉文潔(イェ・ウンジェ)の話なんだ。

「あっ。人間は愚かだ…、外部からの救いが地球には必要なんだ…宇宙人に侵略してもらおう」みたいに知識人の中から「地球人類の裏切り者」が出てくるプロセスを描くことで
ついそちら側にも感情移入してしまう。

三体』に登場する地球の人間が愚かなのは「仲間割れをするから」でなく、「仲間割れをした過去」に起因している。
そしてその「過去」はフィクションではなく、実際に歴史に刻まれているんだ。

 

こうして「地球側の人類」vs「三体星人派の人類」の戦いに話はシフトし、
地球人類は一旦勝利する。

しかし、それは単に同じ地球人を倒しただけだ。
これから待ち受ける真の敵、三体人たちにして見ればそんなのは虫けらの潰しあいに過ぎない。

「三体人に比べれば地球人など虫けらだ」


その事実を前に男主人公、汪淼(ワン・ミャオ)は打ちひしがれる。
そんな彼に喝をいれるべく冒頭で出てきた警官が彼を田舎に連れていく。
(この警官がまたキャラが立ってていいんだ。最初は不快な奴なのにだんだん頼れる兄貴に見えてくる)
そこにはイナゴに荒らされる農地が見えた。

「イナゴと人間の技術格差と、人間と三体人の技術格差のどちらが大きい?」
「人間は奴らにとって虫けらかもしれないが…人間は未だに虫けらに勝てちゃいないんだ」

こうして反撃の希望をもって『三体三部作の第一部は幕を閉じる。

いやあ、第二部黒暗森林』が楽しみで仕方ない。

 

SF的な小難しさは控えめで読みやすく、エンターテイメントとして地味なのに壮大で面白い…という奇妙なバランスで成立しているのが
三体の魅力のひとつだろう。
壮大さはこの記事からでも断片的に摂取できるが、語りの面白さはやはり本文を読むしかない。

もし興味がわいたなら是非、『三体』を読んで欲しい。
そして一緒に来年発売の『黒暗森林』を待とう。

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