前回の記事↓に色々反響がもらえたのは嬉しかった。
さて、今週のサムライ8で「SFっぽい話」が出てきた。
このパートはとても難しく理解しづらい。
しかし、実際のところ35話を読み解くのに「高いレベルの科学知識」は必要ない。
というのも岸本先生も多分、量子力学についてよく分かっていないからだ。
ニュースとかで話題になるレベルの知識で大丈夫だ。
大衆向けにかみ砕いた話は実際の物理学者からすると「いや、それは例え話とかであって。本当にそういう内容じゃないんだよ」と言うかもしれない。
でも別にそれでいいのだ。
サムライ8の世界は漫画の中の話だ。
サムライ8宇宙では本当に、そういうかみ砕いた解釈通りに世界設定がされているんだ。
そういうわけで「実際の物理学」とは異なるということを初めに書いておく。
さて、35話でサムライ8世界の成り立ちについて、不動明王さま直々に説明が入った。
ここで「h粒子」という新しい言葉が登場する。
「h粒子って言葉は既に序盤で出てきているから新しい言葉じゃないぞ。サム8にわかか?」と思われるサムライ8ファンもいるだろう。
しかし、序盤で出てきたのは「H粒子」で今回出てきたのは「h粒子」だ。
大文字と小文字で違う。
…いや、普通に誤植の類でしょ。
多分、この2つは同じものだ。そう思っておくことにする。
思わせぶりなアルファベットのH
Hとは何だろう?
初登場の時はネットで「ABCDEFGH、つまり8番目だからHなんでしょ」とか「八丸/Hachimaru」のHだとか言われていた。
しかし、今回H粒子が「不動明王の変身形態の1つ」「現在の銀河に広がり、重さを与えるもの」だと説明された。
「不動明王/Hudou-myouou」のHだったのか…
なに? 英語版Samurai8では不動のつづりはFudoだからF?
(目に見えるところにはない)
(本質はまやかしによって隠れている)
まあ、実際はダブルミーニングのアイデア程度で「H粒子」の元ネタはまず間違いなく
「ヒッグス粒子/Higgs boson」だろう。
ヒッグス粒子って?
ヒッグス粒子というのは「質量の起源」だの「神の粒子」だのと紹介されることが多い物理学の概念だ。
物理の話なのに「神」とか言い出すの胡散臭すぎるのでやめてほしい。
最初に名付けたのが誰か知らないが愚かなマスコミか怪しげなスピリチュアル疑似科学マンが話を盛るためにつけたに違いない。
全く、言い出した奴の顔が見てみたいよ。
レオン・マックス・レーダーマン/Leon Max Lederman
物理学者。フェルミ研究所の二代目所長。
1988年にノーベル物理学賞を受賞。
あああああ!!!!!!!!!
私が悪うございました!
一応、言い訳をすると彼は全うな研究者で「怪しげなスピリチュアル疑似科学」に対して僕よりもずっと冷静な視点で見ていらっしゃる。
彼は何冊かのそういったスピリチュアル量子論の本を挙げて、
「この部分は物理学的に正しい」
「それをかみ砕いて説明するためにスピリチュアルな例え話をすることも悪いことではない」
「だが、そこから突然飛躍して素粒子は意思を持ってる有機体だの、原子なんて存在しないとか言い出すのはマジでやめろ」(意訳)
と怒っている。
彼の著書「神が作った究極の素粒子」(原題:The God Particle)から引用しよう。
もしも新しい物理学を東洋の神秘主義になぞらえる著述家たちの語る宗教的メタファーが、現代の物理学の革命を理解する上で多少とも役立つのなら、ぜひともそれを利用することだ。
ただし、メタファーはメタファーにすぎない。粗雑な地図だ。古い表現を使えば、地図を領土ととりちがえてはいけない。物理学は宗教ではない。もし宗教だったら、もっと楽に金集めができるだろうに。
引用:神がつくった究極の素粒子〈上〉P322 著:Leon Lederman 訳:高橋 健次
皮肉って付けたと思われるタイトルは、むしろ逆に「現代の物理学の革命を理解する上で多少とも役立つ」とばかりに各種メディアで拡散され、
すっかり「ヒッグス粒子=神の粒子」という話が広まっている。
かわいそう。
話が脱線してしまった。
神の粒子、ヒッグス粒子とH粒子の話だったよね?
ヒッグス粒子は「重さを生む粒子」なんて説明をされることがある。
嘘だけど嘘とも言い切りづらい表現なんだよなあ…。
まあでも、一般的なかみ砕いた説明ではそれで十分だろう。
恐らくサムライ8はこのラフな解釈を元にして描かれているんだと思う。
勘違いしないで欲しいのは「岸本先生が間違ったか科学を広めている!」とかそういう糾弾をしているわけではないのだ。
ヒッグス粒子が「重さを生む粒子」だというのが誤解を生む表現であっても、そもそもサムライ8にはヒッグス粒子は出てこないのだから。
この「一般的に広まっているかみ砕いて説明されたヒッグス粒子の概念」に近いオリジナルの粒子として「H粒子」を登場させている。
いわば元ネタとして利用しているにすぎない。
ヒッグス粒子と「重さ0の粒子」
サムライ8で何度か出てくる「重さ0の粒子」は多分 「質量が0の素粒子」の話だと思う。
「重さと質量を一緒にするな」という物理学者の指摘が飛んでくることはまず間違いないけど、そこはまあ、先ほども言ったようにサムライ8世界の話なので現実の科学とは違うオリジナル用語だからセーフってことで1つ。
ヒッグス粒子はもともと「あっ! 粒子がある! こいつをヒッグス粒子と名付けよう!」みたいに見つかったわけではない。
科学者が長い時間にわたって世界の仕組みを説明する中で考え出されたものだ。
「これこれこう考えると世界の仕組みを上手いこと説明できるよ」
「やはり天才か」
なんてやりとりを繰り返す中で小さな小さな素粒子の粒に問題が見つかる。
「こっちの研究ではこの粒子は質量0なんだって」
「なんかその粒子に質量があるっていう理論がでたんスけど」
まあ、こういうことは科学の世界ではよくあることで、大抵どっちかが間違っている。
しかし、どうにもこうにも「両方正しそう」なので困ったことになった。
そこで考え出されたのが「見かけ上の質量」という考えだった。
素粒子が生まれた段階では質量0=空間を動きたい放題。
これを外部から干渉して動きづらくする。
質量は相変わらず0なんだけど、動きづらくなる。
質量があるものは動きづらいので計算上「動きづらい質量0の粒子」は一見「質量のある粒子」と同じように振る舞う。
これで素粒子の質量が0とすると都合よく理論が成り立つ時と質量があるとしたほうが都合がいい時とが両方うまくいくことになった。
この「動きづらくなる」という現象を説明するために考え出されたのがヒッグス場だ。
流石に長く難しくなってきたのでこっから説明まいていきます。
かみ砕いたり例え話を濫用するので「本当の科学知識」が欲しい人は各自調べてください。
本当はお前もよく分かってないんじゃないかって?
(半分は当たっている 耳が痛い)
さっきの説明で「動きづらい」=「質量があるっぽく見える」って話をしたよね。
じゃあ理屈として「質量0だけど質量があるように振る舞う粒子」があったとき、
その粒子が動き回るの妨害している何かが周囲にある…そう説明すると理屈が付く。
ほら、普通に陸を歩くよりプールを歩く方が何か動きづらくない?
(ここ例え話、水の中でスピードが落ちる科学的なメカニズムとは一切関係ないです)
で、この考えをヒッグスさん(Peter Ware Higgs)が広めたので
プールをヒッグス場、はってある水をヒッグス粒子とよぶことにした。
(ここも以下略)
余談だけどヒッグスさんが自分で自分の名前を付けたわけじゃなくて周りが勝手に呼び始めた。
ヒッグスさんは「ヒッグス粒子とか呼ばれてるアレ(so-called Higgs boson)」みたいな遠回しな呼び方してる。
かわいい。
でも誰もそんなプールを見たことがないし、そこに張られた水も見たことがない。
プールうんぬんの話はビッグバンが起きてすぐの宇宙の始まりの話なので、「多分こう」とは予想できても確かめるのは難しい。
そこでビッグバンほどではないけど似たような『爆発』を意図的に起こしてその水があるのを見ようぜ!
プールを見に行けなくても近くに濡れた足跡とかフェンスにかけられたタオルがあれば水がプールに張られて子供たちがその中にいるってわかるよね!
何だこの例え、事案かよ。通報されるぞ。
そんなこんなで「ヒッグス粒子があるっぽい」ことを確かめる実験が行われて「ヒッグス粒子っぽいもの」が見つかった。
今は「この見つけたものの特徴をしらべて、本当にヒッグス粒子なのか確かめてみよう!」という研究が進んでいる。
今のところかなり近そうだけど、もっとちゃんと確かめないとね…、みたいになってるはず。
で、この辺を科学に忠実に…ではなく表面的な言葉を言葉遊びのように取り入れてきたのがサムライ8のH粒子まわりの話なんだと思う。
動きづらい→動かないようにする→不動→不動明王
みたいな連想ゲームで不動明王と結びつけられ
「神の粒子の正体は別宇宙の情報集積体『不動明王』の変身形態の1つなんだよ!!」
「そしてそれが引力を生んでいるんだよ!!」という話である。
落ち着け、落ち着け自分。
ヒッグス粒子そのものでなくこれはH粒子だ。落ち着け。
えっと。
ヒッグス粒子は見かけ上の質量を生むわけだけど、それとは別にものの重さを生む重力も働いている。
この重力を生み出す素粒子、重力子と言うものについて現在の科学では上手い説明が見つからず科学者の頭を悩ませている。
岸本先生はたぶんヒッグス粒子と重力子を混同して、ヒッグス粒子が重力(=引力)を生むと勘違いしているんじゃないかな。
ヒッグス粒子と重力子の性質を併せ持ち、引力と言う言葉をもっと広く「人と人との関係性」にも拡張した独自のスピリチュアルパワーを生む「H粒子」を創作したに違いない!
やはり天才か。
とりあえず自分の考える範囲で「H粒子とは…?」に説明付られるのは今のところこのくらいだ。
こういうの長い文章じゃなくて漫画の形か、あるいはいっそ小説の形で読みたいものだったなあ…。
最近SF小説ブームがじわじわ来てるし。