バーチャルVtuver豆猫さんの与太話

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【#MTG】「相棒」と《遠見の忠告》:ゲーム外の手札のデザインについて

さて、みんなはマジックの最新パック『イコリア:巨獣の棲処』を楽しんでいるかな?

 

このパックから登場した新メカニズムはどれも非常に魅力的だと僕は大いに満足しているよ。

中でも「相棒」の強力さは毎日のようにTwitterやらDiscordやらLINEやら、どこかしらで話題になっていて、発売以降何度も何度も議論が交わされている。

 

そんな「相棒」メカニズムの強さについて、

かつて世界選手権に優勝したこともあるマジックプレイヤー、Sam Blackが評していた次のフレーズがかなり有名だろう。

 

 Every game, if you have a companion, you start with an eight-card hand. 

 訳:もし君が相棒を持っているなら、君は毎回8枚目の手札を持ってゲームを始められる。

引用:Companion Is The Worst Mechanic For The Health Of Magic Since Phyrexian Mana - SCG Articles

 

この「ゲーム外から得られる8枚目の手札」について僕は思い当たるカードが1枚あった。

そのカードの名前は《遠見の忠告》という。

そんな名前のカードは見たことがない…そう思ったかな?

実際、僕も効果はパッと思い出せたけどカード名は調べるまで分からなかったしね。

 

多分、わからない人が大半だと思う。

なにせ《遠見の忠告》は実在するマジックのカードではないんだから。

 

《遠見の忠告》は第3回グレートデザイナーサーチの課題で提出されたデザインの1枚だ。

 

グレートデザイナーサーチというのはMTGを制作しているウィザーズ社の「入社公募試験」みたいなもので、

「自分はカードデザイナーとしてこれだけ優秀なんだ!」ということをウィザーズ社に売り込むためのテストだ。

 

その第3回の予選でThomas Baker氏が提出したデザインが《遠見の忠告/Farsight Counsel〉というカードだったんだ。

 

僕はこの《遠見の忠告》というカードのデザインを物凄く素晴らしいものとして評価していた。

このカードはそれでも、このままの形では恐らく二度と印刷されることはないだろう。

それはとても残念なことだ。

 

さて、前置きが長くなった。

いよいよ、《遠見の忠告》のデザインを実際に見ていこう。

 

〈遠見の忠告/Farsight Counsel〉
(レア) ― デザイン:Thomas Baker

{4}{U}{B}
ソーサリー
カードを1枚引く。
あなたは遠見の忠告をゲーム外から唱えてもよい。
(これをゲーム外から唱えるためには、遠見の忠告を所有していなければならない。)

引用:https://mtg-jp.com/reading/mm/0030369/

 

これが《遠見の忠告》だ。

初めてこのカードを見た時、僕は本当に興奮した。

これはパッと見では非常に弱く、しかし実は意外と適切な強さのカードなんじゃないだろうか。

 

このカードを使うとカードが1枚引ける。

通常、「カードを1枚引く」だけのために6マナも支払うプレイヤーはいない。

しかし、《遠見の忠告》はサイドボードから使用することができる。
つまり「消費する手札」なしで1枚ドローできるわけで、唱えると手札が1枚増えるんだ。
こう考えるとこのカードは少しばかり《予言》に近い。

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《予言》のドローは2枚だが、《予言》のカード自体は手札から失われるので差し引きで増える手札は1枚だ。

しかし、それでもなお《予言》の3マナに比べると、《遠見の忠告》は非常に重たいコストを持っている。

だからこのカードは弱く見える。
あるいは実際に弱いカードなのかもしれない。

 

ゲーム中に《遠見の忠告》を一度も唱えない試合がほとんどだろう。

少なくとも6ターン目に6マナ溜まったからと言って積極的に唱えたいカードではない。


それでも青黒のコントロールデッキを使って土地を引きすぎた時や、
除去や打消しで一旦相手を制圧したもののこちらの決め手が足りない時、
《遠見の忠告》が輝く瞬間はきっと生まれる。

 

通常「ごく稀にとても欲しくなるけど普段はいらないカード」というのは、
最終的にデッキから抜けていく。

通常のゲームで引いてしまえば「ドローを失った」のと同義であり、
また極まれに欲しい瞬間が訪れたとしても、その時に都合よく引けているとは限らないのだから。

 

しかし、《遠見の忠告》はどうだろう?

このカードは使いたいシーンで必ずあなたの手札にやってくる。
いや、実際には手札にはないんだけど、手札のように唱えられる。

実際に手札にないので手札破壊呪文によって失われることもない。


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あなたがリミテッドで手札2枚を握っている時に《精神腐敗》を撃たれたとしても、
余剰のカードプールから唱える《遠見の忠告》は失われず、立て直しのチャンスを与えてくれる。

 

一見弱いようで、実際にはそれほど弱くないカードだと僕は感じた。
このカードは(少なくとも僕にとって)非常にエキサイティングなデザインであり、
グレートデザイナーサーチのレベルの高さを魅せてくれた一枚であり、

流石にカード名こそ忘れていたもののそのテキストははっきりと頭に残っていた。

 

だから相棒メカニズムを見て興奮した僕は最初困惑し、メカニズムがどう機能するかを把握した時に「あっ!これはグレートデザイナーサーチで見たあのカードみたいに働くんだ!」と興奮した。

《遠見の忠告》という「頻繁には使わないが欲しくなる瞬間のあるお守り」をサイドボードに置く、そんなメカニズムが現実のものになったのだから。

 

ああ、しかし何か様子がおかしい。

相棒クリーチャーは「欲しくなる瞬間のあるお守り」でなく、デッキの根幹になりそうな強力なカード群だ。

 

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今では異例のヴィンテージ禁止にまでなった《夢の巣のルールス》は、

スポイラー当初「これを相棒に指定した場合、自分自身が3マナだからデッキに同名カードを入れられないんだね。除去されて失うくらいなら、いっそのことサイドデッキでなくメインデッキに3、4枚積むのはどうだろう?」そう語られていたところすら見た。

 

ルールスはメインデッキに複数いれたくなるような「常に欲しいカード」だった。

 

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ジャイルーダコンボでは、自分自身がコンボパーツであるという追い風もあり、

相棒として1枚、メインデッキに3枚のジャイルーダを入れるほどだった。

 

《遠見の忠告》が持つデザイン上の良さは跡形もなく消えていた。

 

・サイドボードから唱えられるカードは毎ゲーム使われる繰り返しのゲームを生む危険性がある。

《遠見の忠告》は「唱えずに済む」ならその方がいいカードなので、このパターンには陥りづらい。また、唱えた時に起きる効果はドローであり、非常に分散性がある効果なのもそれを後押しするだろう。

 

もちろん相棒には良さがある「サイドボード専用」のカードでなくメインに入れるカードパワーがあることで強力なカードになっていることは、イコリアを魅力的な商品にするだろう。

《遠見の忠告》はどうしても見た目が弱いのでレア枠で引いたプレイヤーはがっかりするかもしれない。

 

それに相棒はフレイバーも豊かだ。

 

だから相棒よりも《遠見の忠告》の方が必ずとも優れているとは限らない。

 

しかし、それでも。

相棒のマナコストについてもう少し注意深くなることはできなかったのだろうか?

 

首席デザイナーであるMark Rosewater《遠見の忠告》についてこう語っている。

〈遠見の忠告〉を取り上げたのは、もしこれをするとしたら妥当なコストはどうなるのかという活発な議論を呼び起こしたからである。(私はやるつもりはないが、もしやるとしたらどうするかという開発部の議論を見るのは楽しかった。)

引用:https://mtg-jp.com/reading/mm/0030369/

 

妥当なコストについての活発な議論はどこへ行ったのだろうか?

 

どこへ行ったかでいうと、恐らくこの「活発な会議」に参加したメンバーでイコリア開発のメインチームに関わった人はいなかったんじゃないだろうか?

この発言の通り、会議そのものには加わらなかったマローを除き、GDS3の審査員とイコリアの開発チームで共通する人物の名前はほとんど出てこなかった。

Ethan Fleischerが《スプライトのドラゴン》のデザインについてドレイクにコメントを残しているのが辛うじて見つかったくらいしか繋がりを見つけられなかった。)

 

相棒メカニズムは《遠見の忠告》から生まれたものではなく、Dave Humpherysが他数人のメンバーと生み出したものであり、並行デザインの産物だったのでしょう。

 

*並行デザイン複数のデザイナーが同じようなメカニズムを作ること。パクりパクられとは異なり、元々同じゲームについてデザインしていればアイデアが被ることは当然起こりうる。

 

だから相棒と《遠見の忠告》を同じものさしで比べることはできないのかもしれない。

しかし、ああ。そうは言っても。

もし、相棒を作ったグループや調整したグループが《遠見の忠告》について知っていたなら…

相棒の調整はもう少しおとなしかったのかもしれない。

 

しかし、既に相棒は刷られてしまい、後の祭りである。

今後、未来のセットで僕の気に入った《遠見の忠告》が刷られる可能性はほぼなくなってしまったに違いない。

ウィザーズは一度失敗したデザインについて非常に慎重になる。

その上、プレイヤーは相棒の派手さを知ってしまっているのだ。

 

レアカードとしてパックから《遠見の忠告》が出てくることに恐らく多くの消費者は不快感を覚えるだろう。

 

僕の気に入った「極まれにしか使わないが使いたいときにサイドボードから直接使える本当に弱い呪文」はもう二度と生まれない。

そこにわずかな寂しさを覚えずにはいられない。

 

最期にもう一度、《遠見の忠告》と相棒を見比べてみよう。

 

〈遠見の忠告/Farsight Counsel〉


ソーサリー
カードを1枚引く。
あなたは遠見の忠告をゲーム外から唱えてもよい。
(これをゲーム外から唱えるためには、遠見の忠告を所有していなければならない。)

引用:https://mtg-jp.com/reading/mm/0030369/

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いやいや、これはなんというか流石に…8枚目の手札を軽く見積もり過ぎてはいないだろうか…?

 

《遠見の忠告》は「8枚目の手札を得る権利」に6マナを必要とした。

相棒はデッキ制限をコストにその6マナを「踏み倒している」とも言える。

相棒がいるマジックになれたプレイヤーにとって、もはや《遠見の忠告》は魅力的に映らないだろう。

 

それでも僕は、いつか《遠見の忠告》が刷られたらいいなあ…と思ってしまうのだ。