MTGには興味深いフォーマット(遊び方)がいくつもある。
そんなカジュアルフォーマットの深みを探る中で、非常に興味深いフォーマットが流行の兆しを見せ始めたので紹介するよ。
『今夜やります』と突然ディスコードで告知して7人のプレイヤーが集まるようなフォーマットは流行の兆しがあると言っていいでしょう。
というわけで『今日のフォーマット』シリーズの第3回はこちら!
【ヒブロ・プレインチェイス】
これは…本当に頭のおかしいフォーマットだ。
それでは無のフォーマットの深淵にあなたを招待しよう!
まずはこのフォーマットのイカれている部分を簡単に説明していきましょう。
このフォーマットは2つあるいは3つのフォーマットの存在を前提にしています。
それらのフォーマットのうち1つは公式から『デジタルゲームであるMTGアリーナ専用』とアナウンスされているフォーマットだ。
そして別の1つは『MTGアリーナでは遊べないフォーマット』だ。
…?
それらは両立しないのではないか?
そう疑問に思うのは当然だ。
しかし、それらを両立させる方法はある。
なぜなら前者は『公式が紙のマジックでのサポートしていない』というだけで、
何かデジタル特有の処理があるというわけではない。
つまり『公式が紙でのプレイを推奨していないフォーマット』のデッキを紙で組んだ狂人が集まれば、このフォーマットで遊ぶことができるのだ。
というわけで遊んでみたところめちゃくちゃエキサイティングなフォーマットだったのでプレイヤ―人口を増やすために布教記事を書くことにしたんだ。
どんなフォーマット?
ヒブロ・プレインチェイスはプレインチェイス戦の変種ルールだ。
選択ルールである単一次元デッキを採用している。
(ただし我々はローカル・ルールとして総合ルール901.3にある『次元デッキには現象・カードは2枚までしか入れることができない。』という記述を無視することにしている。このルールを採用した場合、デッキにどの現象カードを入れるかでプレイヤー間の格差が生まれる恐れがあるためだ。このルールを撤廃し、所持している全ての次元・現象カードを各種1枚ずつ入れた単一次元デッキを使えるようにしているのだ)
それ以外の次元カード周りのルールはプレインチェイス戦のルールに準じるので、
詳しくは公式のプレインチェイス紹介記事を参照してほしい。
プレインチェイスの内幕|マジック:ザ・ギャザリング 日本公式ウェブサイト
簡単に言えば「ゲームに追加のルールを加える『次元カード』を用いる」
次元カードは非常に個性的であり、通常のデッキに入れられるカードなら、デッキのコンセプトになる効果を持っているものも少なくない。
こうした強力な・派手な…あるいはフレーバーに富んだ何種類もの次元カードから、ランダムに公開された次元を舞台に戦うことで通常のマジックでは想像もしないような相互作用が巻き起こる。
とはいえ、必ずしも同じ次元に留まり続けたいプレイヤーばかりではない。
例えば君が自分自身のクリーチャーに-1/-1カウンターを載せるデッキを使っているのなら《セレズニアの屋根庭》があるラヴニカ次元には留まっていたいだろうか?
私ならこんな次元からは早くおさらばしたいものだね。
普段、プレイヤーが意識することは少ないがMTGを遊ぶプレイヤーはプレインズウォーカー(次元渡りの魔法使い)だ。
プレインチェイス戦では「次元ダイス」という特殊な6面ダイスを振って、プレインズウォーカーシンボルの出目が出せれば、ランダムに選ばれた次の次元へと戦場を移し替えることができる。
このダイスには次元移動の他に「混沌」を表すカオスシンボルというマークがついていて、次元カードにはカオスシンボルが出た時に働く効果も書かれている。
次元を移動するつもりで振ったダイスが思わぬ結果を生んだり、カオス能力目当てに振ったダイスが全く別の次元へと導いてゲームの展開が思わぬ方へと転がることもあるだろう。
こうして戦う次元を次に次に乗り換えながら遊ぶ特殊なフォーマット、それこそがプレインチェイス!
どうだい? 興味は湧いてきたかな?
ただ『次元カード』はMTGアリーナでは実装されていない。
なので遊ぶならデジタルマジックの最先端を行くMTGアリーナではなく紙のマジックと言うことになる。
(デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ2013…? 知らない子ですね)
テーブルは必要だ!
さて、ではヒブロ・プレインチェイスでは一体どんなデッキを使ってプレインチェイスを遊ぶんだろう?
ヒブロという部分がそうなんだろうけど、
聞いたことがないという人も多いんじゃないだろうか?
ヒブロというのはヒストリック・ブロールの略称だ。
MTGアリーナ更新情報(2020年8月)マジック:ザ・ギャザリング 日本公式ウェブサイト
ヒストリック・ブロールの禁止リストに《ルーンの光輪》と《ギデオンの介入》を追加します。こちらも8月13日(PDT)に発効されます。
こちらの記事での禁止制限告知で初めて耳にしたという人も少なくないと思う。
このヒストリック・ブロールというフォーマットはヒストリックともブロールとも異なる独自の禁止制限リストを持ったフォーマットになっているのだが、いかんせん知名度が低い。
禁止カード以外の使用カードは「アリーナに実装されているあらゆるカード」という広いカードプールで行うブロール戦、それがヒストリック・ブロールだ。
(ブロール戦については公式の紹介を見てほしい)
この「アリーナに実装されているあらゆるカード」という謎の基準がヒブロを独特なフォーマットにして、紙で遊ぶプレイヤーを著しく少なくしている。
(というか公式は紙でヒブロを遊ぶ狂人を想定していないと思う)
ヒストリックと言うフォーマットはそもそもMTGアリーナにおける「何でもあり」なフォーマットとして産み落とされた。
最初から紙のマジックでやることを想定していないフォーマットをなぜ紙でやろうとするのか?
そのヒントとなるのが「統率者プレインチェイス」である。
統率者戦はブロールの基となったフォーマットであり、多くの類似点がある。
大きな違いとして…
「デッキが100枚必要」
「カードプールが広い」
「初期ライフが40点」
などが挙げられる。
カジュアルフォーマットであるプレインチェイスと統率者は自然な流れで一緒に遊ぶ人たちが生まれた。
しかしそれをわざわざもう一捻りしてヒブロなどという紙で想定していないフォーマットでやる必要はあるのだろうか?
正直な話を言えば「必要」はない。
ただし、統率者戦と言うフォーマットが抱える「デッキパワー問題」との兼ね合いとして私はヒブロ・プレインチェイスには価値があると考えている。
統率者戦というフォーマットはそのカジュアルな出自と裏腹にカードプールの広さから「とても強いデッキ」を作れてしまう。
結果的にカジュアルフォーマットでありながら「デッキを強くしよう」と思ったときに過激な軍拡に陥りやすい危険性もある。
この辺り、一般論は無意味な世界であり、「統率者戦を遊ぶプレイグループごとに、適切な匙加減は異なる」ので一概には語れない。
ただ、そんな「ちょうどよい強さの統率者戦」として「狭いカードプールで」「より低いライフ」「より枚数の少ないデッキ」でのヒブロは叩き出せるデッキパワーの最大値が低いのが魅力となる。
デッキパワーの高い統率者戦をやりこんだプレイヤーたちにとって「単一次元デッキでのプレインチェイス統率者戦」というのはランダムな次元カードを無視して、
そのデッキに組み込まれた強い動きを押し付けあい妨害しあったほうが駆け引きになる場面も少なくない。
ヒブロというプチ統率者戦でならデッキパワーの上限を抑えながら、時に不利な次元カードの影響を跳ねのけて勝利を目指したり、有利な次元カードを味方につけて通常のヒブロではできないような派手な動きを楽しんだりできるプレイヤーもいるだろう。
もちろんそれらはヒブロがガチデッカー向きのフォーマットではないということを意味しない。
ヒブロでも無限コンボを組むことはできる。
半ば身内ジョークとしてTier1と呼ばれている《薄暮薔薇の棘、ヴィト》を統率者とするデッキは統率者ともう一枚のキーカードだけで容易に無限コンボに入れるうえに揃えるためのサーチカードも黒には何枚か存在するなど、かなり突出した強さがある。
しかしヒブロ・プレインチェイスでは単純なデッキパワーではヴィトに対抗できないカジュアルデッキが次元カードと噛み合って大暴れするケースも少なくない。
統率者戦ではガチなプレイヤーがデッキに組み込むようなコンボの「片割れ」を次元カードが担うことで、ヒブロでもそれらのコンボの再現が起こることがある。
統率者戦でのパワーレベル論争につかれたとか、身内の統率者戦パワーレベルが上がってしまったので適度なパワーレベルでのプレインチェイス統率者を遊びたい!
そういった気持ちが高まった仲間が集まった時、ヒブロ・プレインチェイスはきっと流行る。
いや、その兆しは既に生まれ始めている。
あと5日ほどで『アモンケット・リマスター』がリリースされヒブロで多くのアモンケットのカードが追加される。
『アモンケット』辺りでスタンダードを遊んでいたカジュアルプレイヤーの方がいれば、眠れるカードコレクションに手を付けてヒストリック追加カードとのシナジーを夢想しながら、このフォーマットに足を踏み出すチャンスなのかもしれない。
例えばサイクリングを軸にしたデッキは『アモンケット』のサイクリングと『イコリア』のサイクリングと『ヒストリック・アンソロジー』シリーズのサイクリングを盛り合わせたデッキを楽しめるだろう。
(まあ私なら3マナあったら相棒を手札に加えるより次元ダイスを3回振りたいからザーダはメインな気がするけど…)
とにかくこのフォーマットは味がするタイプのカジュアルフォーマットなので、虚無フォーマットを趣味とする人たちにはぜひ一度遊んでみてほしい。
次回の記事はヒブロ・プレインチェイスのプレイレポートになります。
お楽しみに!
これまでの『今日のフォーマット』