やあ、バーチャルVtuverの豆猫さんだよ。
もうすぐMTGの新パック、『カルドハイム』がやってくる!
毎日のように新カードがプレビューされるなかで、SNSや掲示板には「このカードは強すぎる!」「間違っている!」「カラーパイはどうなった!」などの電子の叫びが綴られる。
私もまた例外ではない!
『カルドハイム』のカードに思うところがある!
このセットにはカラスパイを破るカードがある!
この《鴉変化》を見てほしい!
このカードでは「カラス」が1/1の鳥トークンだとして扱われている!
なんということだ!
これはカラスパイ破りだ!
数字とマジック
MTGのカードでは特定のダメージ点数やパワー/タフネス、能力の組み合わせに「イメージ」が強く伴うものがある。
例えば「3点のダメージ」と言えば、それは稲妻が落ちるのを連想させる。
「2マナで2/2のクリーチャー」と言えば熊だ。
例えそれがゾンビだろうと、2マナで2/2のバニラクリーチャーを見れば「熊だ。」と人は言うだろう。
では、問おう。
「カラス」と言えば?
日本人にはぴんと来ないかもしれないが、本国で質問すれば恐らく少なくないマジック・コミュニティのプレイヤーがこう答えるだろう。
「1/2で飛行を持つ鳥クリーチャー」だと。
これは日本人がやたら《甲鱗のワーム》を称賛するネットミームの海外版だ。
海の向こうでは《嵐雲のカラス》は人気のカードなのだ。
そう、カラスと言えば1/2飛行だ。
しかし、『カルドハイム』ではどうもそうではないらしい。
《鴉変化》が相手に送り付ける「カラス」は、それよりも貧弱で
そのことが《鴉変化》のカードパワーを高めている。
「《鴉変化》が相手に与えるトークンは小さすぎる!」
そういう声をSNSで上げているアカウントは私のものだけではない。
ああ、これは明確な「カラスパイ」違反だ!
私はカラスパイ警察になるぞ!
…なんだって?
カラスと言えば1/2飛行だ。
いやまあ、色による多少のブレもあるだろう。
4度も収録された定番カード、《闇告げカラス》は黒の青よりも攻撃的な側面にスポットを当ててパワー/タフネスが入れ替わっているが、概ねカラスと言えばこのサイズだというイメージを持っているプレイヤーがいるのだ。
だが、待ってくれ。
『カルドハイム』は様子がおかしい。
なんだか「カラス」カードが全体的に強すぎる。
《鴉変化》の送り付けるトークンは《嵐雲のカラス》よりも小さく。
それがカードパワーを高めている。
《囁く鴉、ハーカ》は伝説にふさわしいステータスだからいいとして…
それよりも大きな《占い鴉》は流石にデカすぎるだろ。
これがコモンのカラスだなんて、カラスパイ破りも甚だしい!
これまで、MTGのカラスで最大のものは「何羽ものカラスが1枚のカードになっている」という《カラスの群れ》の4/4だった。
単独のカラス1羽が3/3というサイズを誇るのはとんでもない例外的なことなんじゃないか!?
だいたい、このカードの持つ『予顕』能力。
予顕していることを表すマーカーとなるカードの図柄を見てほしい!
アイエー!? カラス!? カラス、ナンデ!?
これは『カルドハイム』のストーリーに置いて「カラス」がアールンド神の遣いとして重要な位置を占めているからだ。
アールンド神は北欧神話のオーディン、そして彼の従える2羽のカラスを基にデザインされている。
カードデザインとしてアールンドとカラスの両面カードが素晴らしいものである一方、
「なぜトール神とミョルニルが対になっているのに、オーディンと斬鉄剣が対になってないの?」などの声をあげるプレイヤーはひとりではない。
それはまあ、冗談としても。
あえて神槍グングニルでなく、カラス要素をここまで推してくるのはなんなんだ?
『カルドハイム』には暗黙のカラスパイを破って、設定段階からカラスを強くしようという動きがあるに違いない。カラスを強く推しているのは誰だ?
そう考えている私の前に、公式のデザイン記事が公開された。
そして、僕は記事の中に一人の男性を見つけたアリ・ニー/Ari Niehだ。
なんだって!?
『カルドハイム』の展望デザインにアリ・ニーが加わっているって!?
彼は『カラーパイの守護者』マローらに比べて、あまり知られているデザイナーではない。
しかし、私にとっては印象的な人物だ。
彼はウィザーズ社のインターン公募試験「グレートデザイナーサーチ」の第三回優勝者なんだ。
公募試験では数々のマジックの「オリカ」のデザインを求められ、
さらに追加でいくつかの注文を付けられたり、「こういう社内のシチュエーションの中でどんなカードを作る?」などの問題が提示された。
(あるカードに問題が発覚したので全く新しいカードにしたい。だがイラストなどは発注済である。セット全体の雰囲気を壊さず、アルファベット順で削除されたカードの前後に挟まるような名前を持ったちょうどイラストに合うカードを作れ」とかね。)
そんな試験で彼が持ち込んだ『青白の神話レア・クリーチャー』のデザインを見てほしい。
The Raven Lord (mythic rare)
4WU
Legendary Creature — God
5/5
When CARDNAME enters the battlefield, create two 1/1 white Bird tokens with flying.
Flying creatures you control have 1, T: Draw a card.
As long as you've drawn two or more cards this turn, CARDNAME has indestructible.
引用:Great Designer Search 3 Finalist – Ari Nieh | MAGIC: THE GATHERING
私訳:
《カラスの主》 (神話レア)
4白青
伝説のクリーチャー‐神
5/5
カラスの主が戦場に出た時、白の1/1の飛行を持つ鳥・クリーチャー・トークンを2体生成する。
あなたがコントロールする飛行クリーチャーは「(1),(T)カードを1枚引く」を持つ。
このターン、あなたがカードを2枚以上引いている限り、カラスの主は破壊不能を持つ。
アリ・ニーはこのカードを自身のデザインしたカードの中で2番目に優れたものとして提示している。
さて、グレートデザイナーサーチの各試験は開発チームのメンバーの他に、
それぞれの課題ごとにゲスト審査員が招かれる。
アリ・ニーが《カラスの主》のデザインを投稿した試験のゲスト審査員は、
驚くなかれ…イーサン・フライシャー/Ethan Fleischerである!
ここで、読者のみんなにはぜひ「な、なんだってー!」と叫んでほしかったんだけど
多分僕が何に驚いているかを共有できていないと思うので説明しよう。
イーサン・フライシャーの輝かしい成果や経歴は一旦、脇において彼の直近の肩書について触れよう。
イーサン・フライシャーは『カルドハイム』展望デザインチームのまとめ役である。
おっと、話が繋がって来たぞ。
ここで、イーサンが寄せたコメントの一部を引用しよう。
This card is an on-the-nose top-down design of the Norse god Odin, complete with his ravens, Huginn and Muninn.
引用:Great Designer Search 3 Finalist – Ari Nieh | MAGIC: THE GATHERING
私訳:このカードは北欧神話の神オーディンと彼のカラスであるフギンとムニンの二羽をきっかり完璧に表現したトップダウンデザインである。
なんてこった!
「なぜオーディンに斬鉄剣グングニルよりもカラスの方が強く関連付けられているのか?」
その疑問の答えが見えたようだ。
カルドハイムの展望デザインチーム。
そのリードであるイーサン・フライシャーと、新米デザイナーアリ・ニー。
この二人がカルドハイムで北欧神話のオーディンをデザインするときに彼らがGDS3で関わった《カラスの主》のカードを連想したことは想像に難くない。
もちろん、展望デザインには他のメンバーがいたり、設定に関する決定はクリエイティブ・チームとのミーティングも必要になる。
しかし、根っこのところで彼ら二人を繋ぐ《カラスの主》のカードこそが印象深いものとして存在したからこそ、カルドハイムのオーディンは神槍グングニルよりも、カラスを使役する魔術師としての側面を強くフィーチャーされたのかもしれない。
結果として、カルドハイムではカラスを連想させたりカラスを直接的に描くカードが複数枚収録された。
これらのカードがカラスパイを踏み越えている「問題」についても一応触れておこう。
もともと「カラスパイ問題」は私がカラーパイにかけて言い出したジョークであり、
「カラスと言えば1/2」というイメージそのものがデザインの障害になることはないとセットデザインのメリッサ・デトラ/Melissa DeToraが考えたからと言うのが理由のひとつなんじゃないかな。
彼女はカードデザインに変更があったときに、それがプレイヤーへの挑戦ではなく単なる負担になってしまわないかを的確にチームに示せる人材だとセットデザイン・リードから紹介されている。
「経験豊富なプレイヤーがカルドハイムのカラスが1/2飛行ではないことに混乱すると思いましたか?」と彼女に聞ける機会があれば是非とも聞いてみたい。
恐らく彼女は笑って「そんなこと、思いもしなかったわ」と言うに違いない。
参考までに、彼女もまたアリ・ニーの受けたGDS3で審査員をしていて、《カラスの主》についてコメントした1人であることも付け加えておこう。
《カラスの主》が作る「カラス」トークンは1/2でなく1/1だ。しかし、彼女は《カラスの主》を絶賛している。
彼ら彼女らにとってネットミームとしての1/2のカラスなど考えにも登らず、きっとデザイナーたちの思い出の中で「オーディンのカラストークン」と言えば1/1の2羽の鳥・トークンこそがカラスパイ的に正しいのだろう。
そして、近年のマジックのセット開発には展望デザインやセット・デザインだけでなくプレイ・デザインチームが加わりマジックのカードを少しでもエキサイティングなものにしようと数字を調整している。
私が散々「デカすぎる」と言った《占い鴉》も、もしかしたらデザイン中には2/2だったのがプレイする中で「正体不明の脅威はもう少し大きい方がいい」と判断されたのかもしれない。(もちろん、最初から3/3だったのかもしれない)
いずれにせよ、冗談で言いだした「カラスパイ問題」というイチャモンをきっかけにして、
マジックのデザイナーたちに視線を向けてみると驚くほど綺麗な繋がりを見つけることができた。
マジックは神ゲーだが、それは無から神が生んだゲームではなく、働く会社員たちの努力によって生み出されている。
鴉変化のトークンが小さすぎる、占い鴉がデカすぎるなどの「数字の問題」は彼ら彼女らの仕事の裏付けの上に存在する。
私はウィザーズ社の開発メンバーの仕事を信じたいと思う。
最後に、この記事では《カラスの主》のデザイナー、アニ・リーのことを「新米デザイナー」と書き彼が社員として採用されるきっかけとなったカードのうちのひとつに触れた。
しかし、マジックの開発は数年先に向けてプロジェクトを先に進めている。
カルドハイムはこれから発売するが、彼がカルドハイムの新米デザイナーだったのは過去の話なのだ。
現在、アニ・リーはデザイン・リードとして展望デザインを任されるほどになった。(カルドハイムでイーサンがやった仕事だ!)
デザイナーとしてのアニ・リーの今後の活躍に期待して未来のパックの発売を待ちながら、まずはカルドハイムから楽しみたい。
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