さて、いよいよマジックの新パック『ゼンディカーの夜明け』が発売する。
このカードセットでは「パーティ」という新しいメカニズムが登場する。
パーティがどう機能するかについては既に記事を一本書いてあるので、
パーティ・メカニズムがどういうものかわからない人は先にそちらから読んでほしい。
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では、今回はパーティのメカニズムを持つカードの強さについて話すことにしよう。
プレイヤーは「条件を達成すると強化されるカード」を見た時に、どう評価するだろう?
恐らくまず初めに「そのカードをフルパワーで使った場合、何が起こるか」を見る人が多いんじゃないかな?
(白)(青)の2マナで唱えられる3ドロー3ゲインはぶっ壊れ呪文《Ancestral Recall》と同サイクルの《治癒の軟膏》でライフを得たのと同じであり、それはもう絶対に強い。
そして次に考えるのは恐らく「フルパワーで撃てる状況がどんな盤面か」だろう。
ええっと、《冒険の戦利品》をフルパワーで撃てる状況は…
ウィザードがいて、クレリックがいて、ならず者がいて、それから戦士もいる状況だ。
…まず大前提としてクリーチャーが4体いて?
それらが特定のクリーチャータイプで…なおかつ全てのタイプがバラバラである必要がある??
(ウィザード・クリーチャーを4体並べてもそれらは4人のパーティではないため)
とてもじゃないが《冒険の戦利品》を2マナで撃てる状況は構築戦では見かけないだろう。膠着しやすいリミテッドの方が起こりうる可能性はあるんじゃないかな。
《冒険の戦利品》を2マナで唱えるスタンダードのデッキを構築するのは至難の業で、それを達成できる試合はそう多くないだろう。
じゃあ《冒険の戦利品》は弱いのか?
そんなことはない。
《冒険の戦利品》はどちらかと言えば「強いカード」なのは間違いない。
どのくらい強いか具体的に言うと僕はこのカードをソーサリーだと勘違いしていたくらいには強い。
あまりの強さに「こんなインスタントが存在していいはずがない!」と思い、無意識にInstantの表記を見落とし、脳内で勝手に「ソーサリーなんだろうな」と勘違いしていたのである。
確かに《冒険の戦利品》をフルパワーで使える状況は決して多くない。
というか今のところスタンダードでは滅多にない事のように思える。
(これで新スタンダードでバンバン2マナで撃たれてたら笑ってほしい)
しかし、《冒険の戦利品》は条件をフルに満たさないと恩恵を得られないカードではない。
例えば君が《厚かましい借り手》をクリーチャーとして場に出しているときに《冒険の戦利品》を唱えるとしよう。
その場合、《厚かましい借り手》はならず者だからコストは1減って5マナの3ドロー3点ゲインとなる。
これはかなりコストパフォーマンスがいいインスタントなんじゃないかな。
というか、そもそもの話としてだ。
あなたが青白コントロールだとしよう。
場にクリーチャーがいなくてパーティを結成していない。
そんな状況で「6マナの3ドロー3点回復インスタント」の事をどう思うかな?
それって普通に強いんじゃないかな??
《スフィンクスの啓示》という往年の名カードがある。
このカードはゲロ強かったということは知っているかな?
1.知っていた。 2.今知った。
そう、《スフィンクスの啓示》はゲロ強いカードだ。
その強さの大部分はXを自由に選べる点にあるのは確かだけど、
それは言ってみればゲロ強いのゲロの部分であり、このカードをX=3に固定してもきっとそれなりに強い。
実際に君はターンの終わりにX=3で啓示を撃たれたことがあるかな?
撃たれた側の感想を聞いたことは?
なければ教えよう。「は?」である。
《冒険の戦利品》は効果をX=3に固定したまま、条件次第で唱えるときのコストの方のXだけを安くできる《スフィンクスの啓示》なのだから、ゲロ強いことはなくとも決して弱いカードではないはずだ。
しかし、《冒険の戦利品》を評価しようとするとき、最初に「弱い」と感じたプレイヤーは恐らく少なくない。
これはパーティ・メカニズム自体が「添加的散漫/Additive distraction」問題を抱えているからだ。
「添加的散漫」というのは何か?
Mark Rosewater氏(マローの愛称で知られるMTG開発部主席デザイナー)が「ゲートウォッチの誓い」という拡張パックのデザインを補佐していた時に見つけた現象である。(奇しくも夜明けと同じくゼンディカーを舞台にしたパックだ。)
プレイテストする人数が増えるにつれて、「添加的散漫」とでも言うべき問題が明らかになったのだ。
説明のために、こんなバニラ・クリーチャーを見てみよう(デザインなので、クリエイティブはまだ見ていない)
〈ステロイドの熊〉
(1)(G)
クリーチャー ― 熊
3/4これを周りに見せたら、多分かなりの高評価を得るだろう。このコストでこのパワー/タフネスを持つカードは過去に1枚しか存在せず(『ポータル』の《植物の精霊》だ)、しかも森を生け贄に捧げる必要があった。さて、このカードをこう調整してみよう。
〈ステロイドの変熊〉
(1)(G)
クリーチャー ― 熊
あなたがアーティファクトを10個以上コントロールしているなら、[カード名]はトランプルを得る。
3/4
これを周りに見せたら、おそらく高評価はぐっと少なくなるに違いない。アーティファクト10個という条件に目を取られて、最終的にこれを入れられるようなデッキは存在しないという結論に到るだろう。
しかし、ここで考えてほしいのは、その追加の行がないカードには興奮したということだ。〈ステロイドの変熊〉は、カードパワーの面から見て〈ステロイドの熊〉の「完全上位互換」なのだ。条件付きでさらに強化される。最低でももとのカードと同じ強さで、非常に稀な場合に、さらに強化されるだけなのだ。
ここで重要なのは、プレイヤーはカードを見たときに感じたことでカードを評価するということだ。
引用:こぼれ話:『ゲートウォッチの誓い』 その1|読み物|マジック:ザ・ギャザリング 日本公式ウェブサイト
つまり一見して弱い能力が「追加」されると、それは純粋な強化にも関わらず、プレイヤーはそのカードを軽んじてしまいがちという問題である。
10段階評価で6点のカードに稀に条件を満たすと有効になる「微々たる追加効果」を付けると、実際は6.1点のカードに強化されているのだが、プレイヤーはそのカードを見て「4点のカードだな、いまいち」とむしろ初見での評価を下げてしまう傾向がある。
これが添加的散漫なんだ。
さあ、今度はリンヴァーラを見ていこう。
リンヴァーラもまた過小評価されがちである。
リンヴァーラのテキストの「パーティが全員そろっている」とは
「他に3体以上のクリーチャーをコントロールしていて、」
「その中に戦士がいて」
「その戦士以外にクレリックがいて」
「その戦士とクレリック以外にならず者がいる」
ことを意味している。
(ウィザードの枠はリンヴァーラが満たしている)
達成するのは容易ではない。
そしてその容易でない条件を達成して得られる見返りは「留置」でしかない。
リンヴァーラを「弱いカード」だと見る機運は高まっている。
は? 仮に弱いとしてもあのリンヴァーラがタズリと組んで冒険者組織を率いているとかエモエモのエモなんだが? これだから性能厨は…
落ち着け。
まず本当にリンヴァーラが弱いのかもう一度考えてみよう。
もちろん添加的散漫に気を付けながらだ。
達成不可能、あるいは困難な条件はカード性能を弱く見せる。
一度そのテキストを外してみよう。
この非添加的リンヴァーラを見て!
ふむ。これは弱いだろうか?
3マナ3/3飛行という肉づきは「あーこれ、昔なら3マナ2/2、よくて2/3だったろうな…」と感じさせられる良好なマナレシオだ。
(ちなみに以前登場したリンヴァーラは4マナ3/4飛行と6マナ5/5飛行でマナレシオが1を割っている)
固有の能力は《無私の霊魂》に似ている。
それに加えてリンヴァーラは《無私の霊魂》では防げなかったいくつかの状況にも対処できる。
例えばクリーチャー1体を追放する除去や対象を取るコントロール奪取だ。
地味にここでも添加的散漫の罠があり、「リンヴァーラを生贄にしてまで呪禁を付けたい状況はそう多くないよ」というものがいるかもしれない。
しかし、それでもなおリンヴァーラには破壊不能を付与する《無私の霊魂》能力があるのだ。
対戦相手の全体除去をリンヴァーラ1体で「かばう」ことができるのなら、それは非常に心強いことだ。
能力の起動にタップやマナの支払いがないため、どんなタイミングでもパッと使えるのも心強い。
そう、非添加的リンヴァーラは強力なクリーチャーの部類なのだ。
そして本物のリンヴァーラはさらなるオマケとしてパーティ能力を持っているのだ。
高得点のカードに稀に発生する追加効果で0.1点が加点されると添加的散漫が発生し、それは弱く見えてしまう。
恐らくこれからのプレビューでいくつものパーティカードが出てくるだろう。
僕は構築で《英雄たちの世話人》が活躍するとは思わないけど、
《慈悲の天使》や《尽きぬ希望のエイヴン》がリミテでどれだけ活躍したか知っているor覚えているだろうか?
例えばこんなクリーチャーがいるとしよう。
《非添加的な世話人》
(4)(白)
クリーチャー-天使・クレリック
非添加的な世話人が戦場に出た時、あなたは2点のライフを得る。
3/4
これは(リミテのコモンとして)強いカードだろうか?
少し迷うかもしれないが、少なくとも《慈悲の天使》や《尽きぬ希望のエイヴン》の実績を見る限り「弱いカード」ではなさそうだ。
こちらはどうだろう?
《やや添加的な世話人》
(4)(白)
クリーチャー-天使・クレリック
やや添加的な世話人が戦場に出た時、あなたは2点のライフを得る。
あなたが戦士かならず者かウィザードをコントロールしているなら、代わりに4点のライフを得る。
3/4
《やや添加的な世話人》は「ライフ回復が1点減った代わりにタフネスが1高い《慈悲の天使》」だが、場にパーティ適正のあるクリーチャーが1体いるだけで《慈悲の天使》を上回る。
このことを考えればリミテッドではかなり強力な部類のクリーチャーである。
そして本物の《英雄たちの世話人》は基本的にはこれらの架空の世話人の上位互換であり、時には8点のライフを与えてくれる。
しかし、その「時には」の頻度が低いことで評価が本来のスペックよりも過小評価されているのだ。(これが添加的散漫)
もちろんリミテッドでの強さは他のカードに左右されるので、これからフルスポイラーが出てくるなかで変わるかもしれない。
しかしそれでも《英雄たちの世話人》の評価が大きく下方修正されることはないんじゃないかな。
パーティのメカニズムは非常に複雑で、またパーティ全員をそろえるのが困難なのは確かだ。
しかし、その困難な条件をすべて満たさなくとも、少し満たすだけで強力になるカードは恐らくたくさんセットにあるはずだ。
これからのパーティ・カードのスポイラーでは強さ議論に入る前に、添加的散漫を思い出してほしい。
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