バーチャルVtuver豆猫さんの与太話

バーチャルVtuver(存在しないVtuberを装う遊びをする人) ※当ブログはファンコンテンツ・ポリシーに沿った非公式のファンコンテンツです。ウィザーズ社の認可/許諾は得ていません。題材の一部に、ウィザーズ・オブ・ザ・コースト社の財産を含んでいます。©Wizards of the Coast LLC. ウィザーズ・オブ・ザ・コーストのファンコンテンツ・ポリシー|WIZARDS OF THE COAST GAMES 連絡用Gmail:beencatsun@gmail.com

【サムライ8】「侘び寂び」でサムライ8が一気に面白くなった。【注意!35話ネタバレあり】


今週のジャンプ(2020年9号)は読みましたか?

 

呪術廻戦でのやたらテンポのいい説明(「五条悟だからだ‼」)とか面白かったし、
チェーンソーマンは笑いながら変身して一気に静かになるシーンが映画っぽい描写で好きだとか、
ワンピースの「え? マネマネして裸踊りしてるとかじゃなくて本人なの!?」とか、
まあ色々と語りたいところはあるんですけど。

 

それを全部、わきに置いても語りたい漫画がありました。

今週のサムライ8、面白い…!!!

 

めちゃくちゃ面白っかったー!

これはきっとTwitterとかでいつもサムライ8の話をしてる人たちも大喜び! 神回!
…と思ったのですが、自分の周りではそんなに盛り上がってませんでした。


今回のサムライ8、めちゃくちゃわかりやすい。
いや、確かに「わかりにくい」んだけど、そこも含めてめちゃくちゃ分かりやすいというか…。

 

いや、マジでネタとか抜きで今回からサムライ8はめちゃくちゃ面白くなったと僕は感じてるので、この興奮を1人でも多くの人に伝えるのがオレの義だ…ってなったんですよ。

f:id:omamesensei:20200127213902j:plain

 

(じゃあ早速 俺の鍵にサムライ8の面白さをダウンロードしてください!)

 

f:id:omamesensei:20200127214033j:plain

 


サムライ8の2つのテーマについて

 

銀河の状況の解説はどこにいったか、だと?

(お前は物事を焦りすぎる。)

 

その説明をする前にサムライ8のテーマを理解する必要がある


サムライ8のテーマについて

 

「愛」がテーマのひとつである、岸本先生はそう語っている。
実際にサムライ8ではわりと家族愛を中心に色々な形の愛が語られる。
(個人的には弁が三打にむける歪んだ愛が好き。弁の行動がブレているという意見を見かけるけど、「弁は三打きゅんが大好きなんだよ!」と思って補助線を引くと理解が捗るよ)

 

そんな「愛」だけでなく、もうひとつサムライ8にはテーマがある。
それは複数のインタビュー記事で繰り返し書かれる「完璧じゃなくてもいい」というメッセージだ。

 

f:id:omamesensei:20200127214217j:plain 

本作のテーマについて問われると、「作品を通して語るべきですし、あまり言葉では言うべきではないと思うんですけど(笑)」と前置きしながら、「『完璧なものが必ずしもいいというわけではない。完璧じゃなくてもいい』ということは描いていきたいと思っています。

引用:岸本斉史が「完璧じゃなくてもいい」とメッセージ込めた、侍×SFの新作を語る - コミックナタリー

 

僕自身、恵まれた人より、色んなことが制限されている人に読んでほしい、「完璧じゃなくてもいい」という想いがあります。今作の侍に関連しますが、「わび・さび」「完成していない物が美しい」ということを描いていきたい。

引用:『NARUTO』岸本斉史、“完璧さ”への美学とジレンマ 新作SFに込める「リベンジ」 | ORICON NEWS

 

僕も小さい頃、体が細くて弱かった。アレルギー体質の子どもも増えているし、そんな子たちにも共感してもらいたかった。完璧な主人公だと、感情移入できなくて描けない。コンプレックスを抱えた子が頑張る姿を描くことが、僕にとって一番楽しいんです。

引用:「NARUTO―ナルト―」作者・岸本斉史さん 新連載『サムライ8(エイト)八丸伝(ハチマルデン)』スタート 君も完璧じゃなくていい : エンタメ・文化 : ニュース : 読売新聞オンライン

 


割と今まで、こういうインタビューは熱心に読み解こうとしていなかったのだけど、
今週号の話をきっかけに調べてみると「完璧じゃなくていい」という話が出てくる出てくる。

 

サムライ8のテーマが「家族愛」と「完璧じゃなくてもいい」ということだというのは納得してもらえただろうか?

 

さて、そこを理解してもらえたところで銀河の状況に話を戻そう。

 

別にネタとして「その説明をする前に今の銀河の状況を理解する必要がある」を引いてきたわけでなく、本当に銀河の状況を知る必要があったんだよ。

 


サムライ8の銀河の状況

 

これまでの話では「カーラという悪者がいる」「カーラは銀河を滅ぼそうとしている」という情報が出ていた。

f:id:omamesensei:20200127214346j:plain

 


主人公、八丸とその師匠の目的は「この銀河を守ること」である。

f:id:omamesensei:20200127214553j:plain

そのために必要なアイテム「パンドラの箱」と「箱を開けるための鍵」を探すのが師匠の義であり、猫師匠は八丸がその「箱を開けるための鍵」だと考えている。

 


でも逆にいうと分かっていることってそういうボンヤリ情報なんですよ。

「そもそも何でカーラは銀河を滅ぼそうとしているの?」とかが謎。
まあ、ありきたりな「善と悪の戦い」なんじゃない? と解像度の低い解釈をしていたのですが。


(まだまだ心眼が足らぬ…)


その辺りが説明されたことで現在の銀河の状況がくっきりと出てきたのが36話『侘び寂び』です。

 

現在の「銀河を滅ぼすvs銀河を守る」の構図の背景にあるのが「善と悪の戦い」ではなかったということが明らかになったのです。

 

 


銀河の状況~秩序と混沌の戦い~


実際には銀河の状況は「善と悪の戦い」ではなく「秩序と混沌」の戦いでした。

「善と悪の戦い」「秩序と混沌の戦い」

銀河の秩序を守る善の勢力と銀河を混沌に陥れる悪の勢力の戦いは同じではないのか?

そう疑問に思うかもしれません。


(半分は当たっている。)

(だが、そうではない。)

(まやかしによって隠れ本質を逆に見せる)

 

実際には八丸と師匠が混沌の陣営であり、敵であるアタ及びその師カーラこそが秩序の陣営だった。

 

(ズラすね~)


ざっくり言えば不動明王とカーラでは「美しさ」のスタンスが違うのである。
不動明王の美しさに対するスタンスこそ、複数のインタビューで作者のコメントとして載せられる本作のテーマそのものである。

「完成していない物が美しい」


サムライ8は不完全な混沌への賛歌である。

 

 


キルラキルというアニメを知っているだろうか?

f:id:omamesensei:20200127214748j:plain

キルラキル1話 あざみのごとく棘あれば


もう5年以上前のアニメーション作品で小説『カエアンの聖衣』から着想を得て作られたワイドスクリーンバロック風の作品だ。


この作品では「わけわかんねーもの」「なんだかよくわからないもの」を良しとするメッセージが語られていた。

 

混沌陣営のトップ、不動明王の主張である「完成していない物が美しい」というのは、この「よくわからないもの」を良しとするセンスに近い。

 

f:id:omamesensei:20200127214829j:plain

この概念に対して「侘び寂び」という語を充てたのは凄いと思う。


一見めちゃくちゃな言葉の配置に思えるが、実際の侘びの概念が持つ「不足への満足」のような部分にフォーカスしつつ、サムライ並によくしられた和のテイストがある言葉としてバランスが取れた良いチョイスだと感じる。

 

(やっとらしくなってきたな)

 

思えば本作のキャラクターの多くは「不完全」だ。


物語開始時には病弱で外を出歩くことすらできなかったハチマル。
盲目の師匠。吃音のアン。侍になれなかった骨河。記憶を失った竜。

 

メインの仲間たちは皆、欠落を抱えている。
完璧じゃない欠落を抱えたキャラクターの生き様や頑張りこそ岸本先生の描きたいものなのだろう。

 

(なんとなく話が見えてきましたよ)

 


シュレーディンガーの猫の話はしていない

 

さて、さらに今週の内容について話を進める。
ネットで感想を見るとシュレーディンガーの猫について触れて「誤用だ!」「理解の仕方がおかしい」などと書かれているのを見た。

 

(直接ではないが、そうなるな)

 

しかし実際には一度も「シュレーディンガーの猫」の話は出ていない。

猫師匠が探しているパンドラの箱の話をする上で「猫」と「箱」が出てきたのでシュレーディンガーの猫に寄せて「死んだ猫」という語を出している。

それだけだ。


だからシュレーディンガーの猫の話に思える部分は実際には、そういう話をしているシーンではない。


単にちょっとしたフックとしてのネタであり、このシーンとシュレーディンガーの猫に恐らく関係はない。

 

(大事なものほど目に見えるところにはない。まやかしによって隠れているものだ)


箱と猫のシーンは猫師匠が未だに見つけられていないパンドラの箱についての話だ。


主人公陣営はこの世界を救うキーアイテム「パンドラの箱」を未だに見つけられていない。
見つけられていないと思っている。


しかし、実際には既に彼らはそれを見つけている。
「ただ、それをパンドラの箱だとは認識していないだけ」だと不動明王は伝えているんだ。


そして「どう見えるか?」の話をしながらも「どう見せるか」も「お前たちが決めること」だと諭してくる。

 

ここからの話はあくまで僕の予想・推論になるんだけど、

パンドラの箱ってもしかして八丸のことじゃないの?

 

(予想が当たっているかどうかは、オレが決める事にするよ)

 


完璧でないものの象徴、八丸

 

八丸はもともと合鍵計画の失敗作だった。


「マンダラの鍵を開ける7人の侍」を必要とした敵陣営は侍探しをショートカットするための秘策として人造の生命を用いることにした。
7人の「鍵の侍」の代わりに7人のクローンに鍵の役目を担わせようというのが合鍵計画である。


その「合鍵の七つ子」の8人目として、偶発的に生まれてしまったのが八丸だ。

 

本来なら7等分される力が、八丸の誕生によって崩れてしまい、合鍵を作る計画は失敗に終わった。

八丸の生誕自体が完璧さの破綻であり、不動明王の語る不完全さの体現者そのものだ!

 

八丸について、猫師匠は「鍵のひとり」として扱っている。

しかし実際のところ、その証拠が示されたシーンは一度もない。

猫師匠が勝手に「八丸は鍵に違いない」と言ってるだけに過ぎないのだ。


それもそのはずである。八丸は鍵でなく箱の方なのだから。

 

猫師匠は箱である八丸を鍵だと思って見ている。
だからいつまでも箱は見つからない。

 

逆に八丸にはこれから「自分を箱として見せる」=箱にふさわしい力を見せることが求められる。

 

「どう見えるか?」だけでなく「どう見せるか」も「お前たちが決めること」なのだ。

 

 

パンドラの箱の中にあるもの

 

パンドラの箱とマンダラの箱の中には不動明王の力が込められている。

 

今回、八丸は不動明王に聞く。
「箱の中には何が入っているのか?」と。

それに関する答えは「お前たちはもう見ている」


いや、答えを直接教えてやれよ!

 

一応、不動明王が教えない理由も読んでいれば検討はつくけど。

 


箱の中にある力の答えは読者には直ぐに分かるので、不動明王もわざわざ教えたりしなかったのかもしれない。

 

答えはもちろん「引力」だ。

 

そもそも侍の力には2つある。
ものを「断つ力」と「繋ぐ力」だ。

 f:id:omamesensei:20200127215345j:plain

不動明王の姿を見てほしい。

両手には剣と縄を持っている。まさに切るものと結ぶものだ。

 

剣と縄は現実の不動明王も持っているアイテムではあるのだけど、引っ張り上げるための縄を「繋ぐ力」というオリジナル解釈をしたのはうまいズラしだと思う。

 

で、繋ぐ力…つまり繋がりを生む力を作中では「引力」と呼んでいる。

 

35話のステータス開示シーンでもちゃんと引力は書かれているし、八丸の引力値は師匠よりもはるかに大きい。

 f:id:omamesensei:20200127215443j:plain

この引力こそがパンドラの箱に秘められた世界を救う力=仲間との無限の絆パワーなのだろう。

 

 


正直な話していースか?

 

ぶっちゃけ、今週号の面白さを語る上で作者のメッセージとか、そういうのは別にどうでもいい。本質ではない。

 

(裏切ったか!)(勇を失ったな!)(もういい、早く散体しろ…)


今週の面白いところは、話の自己言及性の高さである。

 

観測側がそれを見るレベルに達していなければ認識できない。

そう作中キャラが語るシーンで、こんなにもはっきりと現在の状況の整理や先の展開の示唆や既存の設定に対するどんでん返しが行われて、めちゃくちゃ『話が動いた』回である。

それと同時に、物語が全く動いていないように見える回でもある。

 

八丸が実はパンドラの箱であることや箱の中にあるものが強い引力であることについて

僕は「かなり露骨に書いてきたな」と思ったけれど、わからない人にはわからない。

 

いや、前提として自分の予想があっているかのように書いているけども、これが全然違っていた場合、僕自身がとんちんかんなことを言ってたことになる。

 

そういう漫画の外での動きが本編の意味深で空虚な説教とシンクロする。

観測側がそれを見るレベルに達していなければ認識できない。のだ。


僕は構造がよくできた物語が好きだ。
その点において今週のサムライ8にはぶっちぎりの面白さを感じた。

 

「わかるひとにしかわからない」という無の説教を繰り出しながら、本当に「わかる人にしかわからない」ものを描く。


それでいて、分かる人には分かるような「あからさま」な書き方をする。
なかなかできることじゃない。

 

サムライ8は1話で既に「答え」を書いている。

本当に大事なことは見えるようなところにはない。

 

そう説教を垂れながらこんなにも分かりづらい(しかし、無ではなくちゃんとメッセージが隠されている)漫画を描き続けることができるだろうか?

 

多くの人には無理だろう。

「一見おもしろくないが深い話」?

普通に考えて一見が面白くない漫画が天下のジャンプの紙面をとれるわけがない。

漫画自体がわかりづらいという自己言及度の高い作品なんて、いったい誰がそれをジャンプに描くのを許されるだろう?

 

 

 最初の数ページで3つも4つも専門用語が出てきちゃったら、その時点で読者は『もういいよ』ってなるし、ジャンプでやっていたらすぐに打ち切りになっちゃう。『サムライ8』も序盤から専門用語が出てきて、『NARUTO』に比べると世界観に入るのが難しいかもしれません」と語る。

 

そんな中でもSFに挑戦した理由については「作り手としてすごくおこがましい話ですし、普通はやってはいけないことなんですが、『NARUTO』の作者の新作だったら少しの間は我慢して読んでくれるかなという気持ちがあったんです。

引用:岸本斉史が「完璧じゃなくてもいい」とメッセージ込めた、侍×SFの新作を語る - コミックナタリー

 

誰であろうNARUTOの作者、岸本斉史先生である。

 

最初にこのインタビューを読んだとき、

「おいおい、よくもまあ言えたものだ…」とか思っていたのですが、スケールが違った。

実際には「少しの間」というのはここまでの35話だった。

 

単行本3巻を超える34話かけてヒントを散らしながら「わかりづらい話」を描き続ける。

そして35話にして「パーツを繋ぎ合わせるとはっきりと見えるわかりやすい話」を入れる。

ただし、この話自体も一見の分かりづらさを纏っている。

だから読んでいても分からない。

 

わからないので当然打ち切られはずだが、編集長の手厚いバックアップで生き残れる。

カードゲームの破壊されないコンボみたいな動きするな。

 

 

しかし、ふと話の流れに気づいて見えてきた瞬間に突然、今までの話でトップクラスに理解しやすい回になる。

 

こんな芸当、真似しようとするならまずはNARUTOレベルのヒットを飛ばす必要があるしとてもじゃないがジャンプでやれるテクニックではない。

 

ジャンプという国民的少年誌でここまでの「仕掛け」を打てた漫画には僕は震えた。

 

気づけば既巻すべてを新品で購入していた。

少しでもこの興奮を他の人に伝える…それがオレの義だ…

 

他の読者がどう思おうが、

 サムライ8 が面白いかどうかはオレが決めることにするよ。

f:id:omamesensei:20201224150302j:plain

サムライ8 八丸伝 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)