今日の記事は百合SF小説の布教記事です。
紹介する作品はこちら…!
『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ』です。
顔の良い女性2人の距離が近い表紙。
そう、百合です。
そして作者があの小川一水!
つまり、百合SFです。
ここで「あの小川一水って誰だよ。」という非SFファンにわかりやすく説明すると、今、最もホットなSF作家の1人です。
『日本SF大賞』というそのまんまな名前の賞を10日くらい前に受賞した方です。
あまり権威を振りかざす宣伝はよくないと思いつつも、賞の名前も相まってめちゃくちゃ説明に便利なのでついこのように使ってしまいますね。
どういう作品?
公式に用いられたことがある表現を使わせてもらうなら、
「架空ガス惑星辺境文化巨大ロケット漁船百合」です。
なんのこっちゃ。
そう混乱するのも当然です。
それではこのキャッチコピーを分解しながら『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ』について、説明していきましょう。
ああ、そうそう。
『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ』というタイトルはとても長いので何か略称で呼びたくなるところですが、あくまで今回は布教記事なのでタイトルを覚えてもらうために、略さず毎回『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ』のことを『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ』と書くことにします。
百合から? SFから?
物語を紹介する時、世界設定から説明するかキャラクターから説明するかは作品を紹介する人をしばしば悩ませます。
百合作品ならやはりキャラを紹介するでしょうし、SF作品なら世界設定から紹介するでしょう。
では『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ』のような百合SFはどこから切り出すべきでしょう?
ここは一旦世界設定、つまりSFの要素から行きましょう。
ああっ、百合について聞きたくて記事を読みに来られた方!
ブラウザバックする前にもう一度表紙を見てくださいませんか?
ツインスター・サイクロン・ランナウェイ (ハヤカワ文庫JA)
この2人の百合の背景となる世界観を知るために少しばかりお時間を割いてはもらえないでしょうか?
もちろん世界設定を説明したと後でこの顔がいい2人についてお話します。
1.「架空ガス惑星辺境文化巨大ロケット漁船百合」
とりあえず架空ガス惑星と巨大ロケット漁船の部分から行きましょうか。
舞台となるのは遥か未来宇宙のどこか彼方にあるガス状惑星。
ガス状惑星って分かりますか?
太陽系で言うと木星がガス状惑星に該当します。
物凄く雑に言うと「地面がない星」です。
…さすがにちょっと雑ですね。(完全に地面がないわけでもないし)
コアとなる小さな中心部(小さいと言っても惑星レベルの話なのでとても大きいはずです)
それを取り巻くようにガスが集まってできた「主成分が気体」の巨大な星。
それがガス状惑星です。
星の大部分がガスに包まれているため、全体像を見ると縞模様のヴィジュアルになるのが特徴的な天体です。
赤色、白色、ピンク色。それらのしましまに覆われた星が『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ』の舞台となっています。
物語りは遥か未来。
人類は宇宙のかなたまで進出し生活圏を広げています、主人公たちが住むのはそんな星のひとつ。
この星の主産業は昏魚(ベッシュ)の漁獲です。
昏魚(ベッシュ)というのは『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ』に登場する架空の生き物。
まあ早い話が「金属質の空飛ぶ魚」みたいなものです。
舞台となる星はガス惑星=地面がない星だと既に説明しましたね。
地面がないということは地中から鉱物資源を掘ったりできないことを意味します。
現代の人類が果たして金属なしで生活を成り立たせることができるでしょうか?
いわんや、未来人をや。
昏魚(ベッシュ)は星の下層に沈む重たい液体金属などを体に取り込んで生きている生物ですから、昏魚(ベッシュ)を捕まえることで資材を調達できます!
ガス惑星の住人たちは昏魚(ベッシュ)漁で生活を成り立たせているのです。
2.「架空ガス惑星辺境文化巨大ロケット漁船百合」
さあ、もう漁船が捕えるものが何か分かりましたね?
そうです。昏魚(ベッシュ)です。
この「空飛ぶ金属魚」を水揚げするための船が要ります。
もちろんこれはSF的な未来の話。
船も私たちの想像するようなものではありません。
昏魚(ベッシュ)を捕るための特別な宇宙船が礎柱船(ピラーボート)です。
この船は大部分が「動くハイテク粘土」とでも言うべき素材で構成されています。
通常、私たちが想像するような「漁船」は魚を捕るための網を積んでいます。まずどのような漁をするのかを決めて、その漁の仕方にあった網をあらかじめ船に積んで海へ出るわけですね。
礎柱船(ピラーボート)はどうでしょう?
この宇宙漁船ロケットには網が積まれていません。
代わりに粘土のような性質を持つ礎柱船(ピラーボート)の船体が「変形」します。
現地でロケット自体が形を変えて、船体の一部を網に作り替えるのです。
その時、その場に応じて、最も適する網を編み上げ昏魚(ベッシュ)を捕らえる。
それが宇宙漁師サーキュラーズの漁法なのです!
3.「架空ガス惑星辺境文化巨大ロケット漁船百合」
さて、舞台設定の粗方は説明しおわりました。
最後に気になるのが「辺境文化」の部分ですね。
舞台となるガス惑星は宇宙の田舎。
「え? これ未来が舞台の話?」と混乱するような、古臭い価値観に縛られ「伝統が~」と言う要素が出てくる。
この文化ギャップもこの作品世界の魅力のひとつです。
先述のとおり、宇宙漁師であるサーキュラーズたちは礎柱船(ピラーボート)を変形させて網を作って漁をします。
この時、必ず2人の漁師が乗り込むことになります。
1人は女漁師デコンパ。彼女の役割は船体の変形です。
自分の意識を船に伝えて形を操り、量をするために最適な船体と網を作ります。
もう1人は男漁師ツイスタ。彼の役割は船の操縦です。
デコンパは礎柱船(ピラーボート)を変形させることはできますが、船を動かすことは出来ません。ツイスタが舵を取ることで初めて礎柱船(ピラーボート)は自在に惑星を覆うガスの海を移動することができるのです。
この2人組を組むにあたって、障害となるのがしきたり伝統世間体…
やれ旦那と妻の家柄の格は釣り合うかだの、夫婦は必ず別の氏族からペアになって漁獲はそれぞれの家の氏族に納めることだの。
主人公の女性、テラ・インターコンチネンタル・エンデヴァも、これらのしきたりに見合うツイスタを見つけなければ亡き両親の形見である礎柱船(ピラーボート)を没収され、ちゃんと乗れる夫婦に船を引き渡さなければいけません。
果たして、テラは旦那様である男漁師ツイスタを見つけられるのでしょうか?
4.「架空ガス惑星辺境文化巨大ロケット漁船百合」
果たして、テラは旦那様である男漁師ツイスタを見つけられるのでしょうか?
見つけられませんでした!
代わりに彼女のところに飛び込み営業をかけて来たのはお人形さんのような美少女、
彼女は自分が本来男漁師の役目であるツイスタなんだと名乗り出て…!
というわけで百合要素の登場です。
夫婦船である礎柱船(ピラーボート)を女の子同士で操業していく2人の関係性を読者は楽しむことができるんですね~。
二人の女漁師を改めて紹介しよう。
*ここから感情の書き殴りで文が荒れ始めます*
まずは船体変形役のデコンパ、
テラ・インターコンチネンタル・エンデヴァ。
通称、テラ・テルテ。表紙のおっぱいが大きいほう。
器量よしで家の格もそこそこしっかりした未婚のデコンパ。
おっぱいが大きくて、少しおっとりした感じの24才。
事故で亡くなった両親が礎柱船(ピラーボート)乗りだったため、
その跡を継いで漁師になり、形見である両親の船に乗り続けたい。
しかし網を作り出す作業にその胸のように大きな難がある。
よく言えば「天才型」でトップダウン作業を得意とする彼女は、魚群の種別を的確に見ぬいて捕獲に最適な網を作り出せる。
逆に言えば「最適な網」だと思えば、定石やセオリーに捕らわれないような独創的な網を広げるため、乗り手となる旦那に上手く合わせられないことばかり。
お見合い候補を逃し続け、このままペアとなるツイスタを見つけられなければ、
両親の形見である漁船は氏族に没収されてしまう。あと文中で何ども繰り返されるけどおっぱいが大きい。
そんな彼女の元に現れた女ツイスタが、DIE・オーバー・ドーズ。
クールな見た目と裏腹に、やたら押しが強く若い情熱にあふれている。
その操縦の腕は確かで、複雑な力学的計算をしながら燃料用の粘土を操り舵をとる。
しかし、ミステリアスな彼女の本質は年相応あるいは それ以上に子供っぽい脆さを持った女の子。
計画が上手くいかずに泣き崩れるダイオードを優しく包むテラの母性。
氏族社会のしきたりの中でテラが見つけた希望の星、ダイオード。
『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ』はそんな2人の関係性を楽しむことができる名作百合SFである。
本作は既に発表された同名の短編を長編として再編したものなんだ。
小川一水さんから、『アステリズムに花束を』に収録された短篇「ツインスター ・サイクロン・ランナウェイ」が加筆されて1冊の本になることが発表されましたー!
— 溝ロカ丸 (@marumizog) 2019年7月28日
#sf58 pic.twitter.com/P5xrd38f0S
短編版は百合SFアンソロジー、『アステリズムに花束を』に収録されているので、そちらを先に読んでみるのはどうだろう?
アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー (ハヤカワ文庫JA)
ツインスター・サイクロン・ランナウェイ以外の作品も素晴らしいものがたくさん収録されているのでツインスター・サイクロン・ランナウェイの試し読みにオマケとして複数のSF短編がつくお買い得セットだとも言える。
是非とも百合SFアンソロジーを読んで欲しいなあ。
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【2020/03/13 追記】
長編版の冒頭1万2千字が無料公開された。
読んでみたけど、ちょっと待って。
ちょっと待ってこんなの聞いてないよ!!!
驚くことに長編版の冒頭は短編版の数百年前から始まっている。
いわば舞台となるガス惑星とそこに住む宇宙漁師の起源となる部分なんだろうけど、そこにもまたものすごく強い関係性の物語が仕込まれているの何?
長編版は単に2人の物語の解像度をあげたものでなく、追加のオリジン・エピソードを含む別物になっているのか?
でも表紙の二人は短編版の二人だし…あ~発売日が待ち遠しい!!!
【追記ここまで】
『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ』3月18日発売!
長いタイトルだけど覚えてもらえただろうか?
新刊書影出ました。女コンビがガス惑星でロケット乗って漁業する、「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ」336ページの長編版、2020年03月18日発売予定です。
— 小川一水 (@ogawaissui) 2020年3月2日
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長編版読後の追加記事↓