久しぶりの映画感想記事ですね。
というか、初めての「映画感想」の記事かもしれない。
「いや、今までお前は何度も映画感想を書いてるだろ!!」って話なんだけど。
あれらの位置づけは個人的には「映画の布教記事」だったんだ。
何が違うのかと言われると、今までの布教記事は「名作! 見てくれ!」みたいな感じだった。
記事を書く意図は「こんな素晴らしいものがあるだよ!」という布教にこそあった。
でも今回はそうじゃない。
「ミッドサマーを見ろ!」という記事じゃないんだよ。
(過去記事を漁ったところ、他に布教記事じゃない映画の記事としてドラクエ映画のやつがありました。初めての感想記事ではなかったみたいだ)
ミッドサマーは「面白い!最高!さあ、君も映画館へ行こう!」という気持ちになる映画ではなかった。
世の中には「面白い映画」と「面白くない映画」しかないわけではなく、
どちらでもない中間の作品が存在する。ミッドサマーもそのひとつだ。
それでも。
それでも、どちらの方に近いかで分類をするなら、ミッドサマーは「面白くない映画」だった。
だから、「この記事を読んでミッドサマーを見に行きました!責任を取れ!」とか言われてしまうと僕は大変に困るのでこうして予防線を張っているんだね。
あなたが見にいく決断をしたのは僕の責任ではないです。
さて500文字以上も使って自己保身のための文章を書いたのでそろそろ本題に入っていきましょう。
映画ミッドサマーってどんな話?
簡単にまとめるとアメリカの大学生たちが、友達の実家の村祭りに招待される話だよ。
招待してくれるのは『スェーデンの小村出身の友人』ペレ。
彼の故郷ホルガ村ではちょうど今年『90年に一度の祝祭』をやるんだって。
さあ、男4人組でパーっとスウェーデン旅行を楽しもうぜ!
まあ、そうはならないんですけどね。
『彼女との関係性に悩む男』クリスチャン
4人組のひとりクリスチャンの彼女ダニーに不幸が訪れる。
ダニーの妹が両親と無理心中を図り、彼女は家族を失ってしまうのだ。
失意の彼女のケアと友人たちの旅行プランとで板挟みになったクリスチャンは、
「友人の誘いを断る」「彼女に自分が友人と楽しく旅行にいくことを伝える」のどちらもできないままズルズルと時間を過ごしてしまう。
結局、旅行の計画は彼女のダニーが知るところとなり、カップルは喧嘩。
なんとか事を収めようとしたクリスチャンは「みんなも君と行きたいって、君が良ければだけど」とダニーを旅行に誘いつつ、
友人には「話を合わせてくれ。大丈夫、彼女はついてこないはずだ」とか言い出す。
この辺のクリスチャンのダメさ、嫌なリアルさがあるんだよね。
結局、ダニーは旅行についてくることになる。
男だけの楽しい旅行はパーだ。クリスチャン、お前のせいだぞ。
こういうわけで男4人+家族を失った彼女の5人はペレの故郷、ホルガ村に向かう。
そして、ホルガ村での祝祭を過ごすうちに、この村の明るさと村人の深い共感の力によって傷心のダニーは癒される。
…なんて「嘘は言ってないけど騙す気がある文章」でまとめてもいいんだけど。
ぶっちゃけ、「ネタバレ厳禁!」みたいな話でもないしもはや普通に話題になってるので隠さずに言ってしまおう。
ホルガ村は怪しい儀式とかをしちゃうカルト感ただようところで、訪れたみんなは酷い目に遭うのだ。
『頭の中からっぽのバカ』は村に伝わる「先祖たちの樹」に小便ひっかけるし、
『民俗学について論文を書きたいやつ』は村に伝わる聖書の写真を撮ろうとして絶対にダメだと断られる。(断られたので後で礼拝堂に忍び込んで写真を撮る。)
もうね、すごいよね。
この後どうなるのか分かりきってるじゃんね。
「“すべてが伏線”“全部ネタバレ”ともいえる緻密な脚本」なんて表現でミッドサマーを語る記事もあったけれど、僕には言わせてもらえばそれは「伏線」とはちょっと違う奴じゃん!ってなる。
ホラー映画としてのミッドサマーは「陳腐」で面白くないものであった。
ミッドサマーはつまらない映画ではなかった
最初に面白くないって言ってるのに、今度はつまらない映画ではないとか言いだすと僕が信用されなくなってしまいそうだな。
でも既に述べたように「面白い」と「面白くない」の2択ならば面白くない。
「面白い」「つまらない」「どちらでもない」の3つの選択肢から選べるのならば、
僕はミッドサマーを「どちらでもない」に分類したいのだ。
ミッドサマーは「つまらない映画」ではなかったので、最後までちゃんと見れたし、
途中で寝てしまったり、もういいやとはならなかった。最後まで引き込まれ続けた。
だから、まあ。つまらないわけではなかったのだ。
監督の演出プランや音の扱いの巧みさ、画面の端に映り込む作り込まれた背景セット…ついつい注目して見たり聞いたりしたくなる。
つまらない映画ではなく、ちゃんと「見れる映画」だった。
ただ、「面白い映画」で人に勧めたくなる名作かというとそうではなくて。
例えば「ホラー映画」を期待して見るのならミッドサマーはあまりにも薄っぺらい。
そんなに怖くもないし、少しばかりぎょっとすることはあるけど、それもジェットコースター的なスリリングな体験の連続や緩急ではない。
漠然とした「なんか不安」がまとわりついてくる
・知らない言語で歌われる不思議な音楽が突然の電話のコール音でぶつ切りになる冒頭
・舞台となる村に移動するシーンで画面が上下さかさまになりスクリーンの上をずっと自動車が走る。
・先の不穏な展開をネタバレのごとく示す民族調のアート
「不安の演出」はとてもうまい。
一方で「恐怖の演出」は一見すると下手である。
ただこれに関しては実際には技術的な低さから来る「下手さ」ではなくて、
そもそも監督はミッドサマーをホラー映画としては撮っていないことによると思う。
──本作は宣伝上はホラー映画とジャンル分けされていますが、もちろん単なるホラー映画を作ろうとしたわけではありませんよね。ストーリーテリングにおいて最も大切にしたのはどんなところでしょうか?
そうですね、ホラー映画と呼ばれる資格が本作にあるのか、わかりません。私はどちらかと言えば「おとぎ話」として捉えています。『へレディタリー/継承』はホラー映画ですがね。
引用:https://fansvoice.jp/2020/02/21/midsommar-aster-interview/
どこかのインタビューで「ホラー映画として撮るならあれで完成にはしなかった」と言ってたのを見た気がしたけど、今探したらソースが見つからないので話半分で。
前作『ヘレディタリー/継承』でホラー映画監督としてあつかわれたことから、
今作『ミッドサマー』もホラーの文脈で捉えてしまいそうになる。
しかし、監督はそういうジャンルに縛られるのを避けて様々なジャンルを混ぜ込んだ。
癒しのためのセラピー映画であり、失恋と決別を描く恋愛映画であり、カルト村を舞台にしたフォークスリラーでもある。
その結果、それぞれのジャンルの中では点数が高そうなポイントが他のジャンルとしては減点ポイントになったりする。
あー。こういう評価って以前にもブログで書いたなあ。
実写版がっこうぐらしの時だ。
「B級ゾンビ×アイドル映画×青春劇×漫画原作」みたいなジャンルだ。
「○○として見ると××要素と△△要素が邪魔だなあ」
それぞれの記号に任意のジャンルが入る。
そしてその評価軸では50点から60点だろう。
だがが映画がっこうぐらしはそのどれでもなくどれでもあり、
「B級ゾンビ×アイドル映画×青春劇×漫画原作」映画としての評価はA+だ。
ミッドサマーもやはりジャンルの枠を超えている映画であり、既存の映画ジャンルに沿って評価をしようとすると点数が下がる。
「ホラー映画としてのミッドサマー」は多分そんなに面白くないし、点数も低めだ。
でもつまらない映画ではなかったんだよなあ。
というか、ぶっちゃけて書くとかなり「笑える映画」だったんですよね。
「カップルの心と関係性の機微を描く…」とか「共同体の中で個を失うことの是非」とか。そういうのよりも絵面の面白い笑えるシーンが結構あったんですよ。
別に笑えるシーンを見に劇場に足を運ぶ必要はないんだけど、
せっかく見に行くならその辺を笑う話をしてほしいと思った。
いや、ほんとめちゃくちゃ面白いんですよ。
こういうのも『シリアスな笑い』の類なのかな。
例えばカルトのセックス儀式に参加させられるクリスチャンのシーン。
怪しいお香やハーブ(意味深)入りのドリンクを飲まされたクリスチャンが怪しい建物に通されると、そこには全裸の若い娘とその後ろでめっちゃ歌ったり喘いだり応援してくる謎のおばさんたちがいるんですよ。
エロい!とかよりも先に笑いが込みあげてくる。
「僕は今、何を見せられているんだ?」
クリスチャンはこのあとも全裸で逃げ出して駆けまわったり、
内臓を取り出した熊の皮袋に詰め込まれて体の自由を奪われたりするんだけど。
ここも「邪悪なるカルトの儀式! コワイ!」とかじゃなくて、
ふふって笑いがこみ上げてくるんですよね。
熊の皮袋のノドのあたりに開いた穴からクリスチャンの顔が出てるの、
そういう着ぐるみとか寝袋みたいなのネットで見たことあるぞ。
前述の「どうなるかもうわかるじゃん」シーンだとか、
「イチイの樹から取った毒を飲ませ『痛みと恐怖心がなくなる』と言っているのに塗られた側が熱さに悲鳴をあげるシーン」
「村の伝統のラブストーリーを描いたタペストリーの絵柄」とか恐怖シーンのはずなのに恐怖よりも笑いの気持ちが生まれてしまう。
アリ・アスター監督には悪いけれど、彼は評論家たちが言うような「二十一世紀の最高のホラー映画監督」ではなく、たまたま素晴らしいホラー映画である「ヘレディタリー/継承」を創った単なる奇才であり、本質的にはホラー映画監督という枠で図るべき人物ではないのかもしれない。
もっとシリアスな笑いと人を不安にさせる描写の緩急を活かした作品を撮る方がむいていると思うんだ。
まあ、でもそれは外野が何を言うかじゃなくて監督自身が決めることだ。
監督は今後のキャリアについて「いくつか映画を撮ってから、ホラーに戻ってくることになるかもしれません」とコメント。
そして、ただいま進められている次回作に関しては、「奇妙な悪夢のようなコメディか、病的な家族のメロドラマ」と答えた。
引用:『ミッドサマー』監督、次回作はコメディを撮りたい ─ ホラーはしばらくお休み、別ジャンル進出に意欲 | THE RIVER
いやっほー!
アリ・アスター監督の次回作に期待しよう!
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