ショップに旋風を巻き起こしたガチTYPE/Zeroの波は落ち着き
強さでなく「おもしろさ」を重視したカジュアルでの対戦が流行りはじめ、
「楽しいマジック」が店内のデュエルスペースを満たしていた。
「これこれ。これが私の望んでたプレイ環境だよ…」
強さや最適解を求めるよりも「使いたいカード」や「楽しいカード」が優先的にデッキに詰められる。
勝っても負けても楽しくなれるカジュアルデッキ環境…。
「それじゃあ私もお気に入りのデッキを使いますかね…」
そういってレイが取り出したデッキは【千夜一夜物語】。
一度は【刹那さみだれ撃ち】すら倒した驚異のデッキだ。
TYPE/Zero~カジュアル編~
「さあ、誰か私の【千夜一夜物語】とやりたい人は?」
「そういえばレイちゃんのお気に入りデッキなんだっけ、それ」
「そうだよ。私の一番のお気に入り」
「でも、そのデッキが戦ってるところって見たことないんだよね」
「それなんだよな。勝ってるところは見たけど戦ってるところはないな」
「最近使ってないしスねてないかなあ」
「デッキってスねるものなの?」
「「「当たり前!」」」
「ひっ!」
「デッキはスねるのですわ。これは常識です」
「常識なんだ…」
「しばらく使っていない時…」
「ロマンカードを見捨ててガチカードに差し替えた時…」
「他のデッキで使うからと言って、基本土地をお気に入りの絵柄からその辺の適当なものに差し替えた時…」
「デッキはスねるんだよ、アオイちゃん」
「スねるとどうなるの?」
「「「主に土地が事故る」」」
「そっかあ…」
「さあ、誰がやる…?私のカジュアルタイプ0デッキと」
「よし、じゃあ私がやるよ」
「アオイがカジュアルやるのは珍しいな」
「青白のコントロール脳だもんね」
「私だってレイちゃんたちとカジュアルしたいもん」
「デッキはあるのか?」
「もちろんですわ。わたくしがアオイさんと一緒に作ったとっておきのデッキですの」
「黒単好きの長田が入れ知恵したってことは黒いデッキか?」
「それも考えたけど、最終的には青黒にした。やっぱりわたしは青が好きだから」
「それじゃあ、始めようか」
決闘!
「まずは先行後攻を決めようか」
「コイントスで?」
「んー。とりあえず《権力行使》だすけどある?」
「お揃いだね。はい、《権力行使》」
「まあ、この辺は挨拶みたいなものだよね」
「それじゃあコイントスしようか」
クルクル…カタッ
「レイちゃんの先攻だね。」
「それじゃあマリガンチェック…キープ」
「マリガンチェック…キープ」
「とりあえず《モックス・ジェット》」
「あれは…!パワー9と呼ばれる9種類のぶっ壊れカードの1つ…!」
「タップすると黒の1マナが出せる、0マナのアーティファクト…!」
「それって《沼》と何が違うの? 土地だって0マナでマナが出るよ」
「細かい違いは色々あるが一番の違いは土地でなくアーティファクトだということ…」
「つまり?」
「いいか、MTGの基本ルール『土地は1ターンに1枚』までしか出せない」
「このルールがあるから基本的に1ターンに1マナずつ出せるマナを増やしていく」
「だけど《Mox》はアーティファクトだから…」
「1ターンに1枚の制限が…ない?」
「その通り。」
「土地と《Mox》を同じターンに出せるし、1ターンに《Mox》を複数置くこともできる」
「じゃあ2枚目の《モックス・ジェット》を置くね」
「なんであのカードは伝説じゃないんだ…」
(伝説の~とつく場合、同名カードは場に1枚しか出せないルール)
「黒2マナを払って…超動、《ダンジョン突入》!!」
「カウンター用のマナもないし、通ったと思っていいかな?」
ガサゴソ
「いや、あの何してるの?」
「なぜ机の下に…デッキを持って潜ってるんだ?」
「彼女は入ったのです、ダンジョンに…!」
「は?」
「ミンメイ、解説をお願い」
「《ダンジョン突入》はサブゲームカード、アル」
「サブゲームカード?」
「例えばコイン投げをして勝ったら何かをするとか、デッキの上のカードを見せ合ってコストの重い方が勝って何かボーナスがあるとか」
「そういう『ミニゲーム』を遊んで、ミニゲームに勝てばボーナスをもらえるカードが存在するアル」
「基本的にはサブゲームカードもそれと同じ。」
「『あるゲーム』をして勝てばボーナスが得られるカード アル」
「やけにもったいぶるじゃねえか。『あるゲーム』ってなんだよ?」
「『マジック:ザ・ギャザリング』ネ。」
「は?」
「MTGのゲーム中に、MTGの試合をして、その試合に勝ったほうがボーナスとしてデッキからカードを2枚手に入れることができる。そういうカード アル」
「????」
「マジックに勝ったらマジックで有利になるカード??」
「それデッキはどうするの?」
「それまで遊んでいたゲームの手札や場はそのままにして」
「場所を移して『残っているデッキのカード』で遊ぶアル」
「レイが机の下にもぐったのは?」
「《ダンジョン突入》の効果アル。」
「《ダンジョン突入》のカード名通り、場所を移すときはダンジョン…つまり机の下に潜って遊ぶようにテキストに支持されているアル。」
「ダンジョンでの冒険…机の下でのマジックに勝ったら、宝物を持ち帰る…」
「つまりカードを元のゲームに持ち帰れる…」
「そういうフレーバーを表したカード ネ」
「頭おかしいんじゃねーの?」
「まあ、この前までTYPE/Zeroしてたのに比べたら遥かにマシだな」
「さあ! アオイちゃん! 早く早く! 次のゲームを始めるよ!」
「これ、ライフ20点削るまで、机の下でやるの?」
「《ダンジョン突入》はライフ5点で開始っていう指定があるから5点で済むよ」
「5点減るまでだったら…まあ、いいか」
「潜るよ」
「これ、先攻と後攻はどうやって決めるの?メインの先攻後攻と同じ?」
「本来はまたコイントスとかで決めなおすけど、《権力行使》があれば先攻が取れるよ」
「じゃあ机の上の《権力行使》使うね」
「ううん。それはダメ」
「最初のゲーム開始時に使った《権力行使》はサブゲームには持ち込めないよ」
「机の上のもので持ち込めるのは山札だけ。それ以外のカードは置いてくるの」
「あっ、そうなんだ」
「《権力行使》はサイドボードから統率領域において使うんだけど、統率領域に置いた状態の策略はサブゲームに持ち込めないからね」
「だから、アオイちゃんの『その《権力行使》』は使えないんだ」
「うん?」
「『その《権力行使》』?」
「うん。『その《権力行使》』」
「それじゃあ私は2枚目の《権力行使》をサブゲームの統率領域に置くよ」
「こっちはまだ未使用で統率領域に置いてないから使えるんだ」
「アオイちゃんは《権力行使》の2枚目は入れてない?」
「じゃあサブゲームの先手は私だね!」
「……」
サブゲーム…開始!
「マリガンチェック…キープ」
「マリガンチェック…キープ…でいいのかな?」
「私のターン。《ブラック・ロータス》を置くよ」
「あれもパワー9の一枚! ブラックロータスじゃねえか!」
「《Mox》と違って使い捨てだが、瞬間的に3マナ出せるカードだぜ!」
「《ブラック・ロータス》より白マナを生み出し…《シェヘラザード》、超動!!」
「あれはアラビアンナイトをモチーフにした千夜一夜物語の語り手、シェヘラザード!」
「またサブゲームカードだとぉ!!」
「このサブゲームに負けるとライフが半分になるネ」
「ライフが半分!?」
「つまり20点のライフを半分に!? 2マナで10点ダメージってこと!?」
「だが、待てよ。これはダンジョンの中でのサブゲームだよな…?つまり減る前のライフは5点で半分の3点を失うの?」
「どういうことだってばよ」
「今の状況を整理するとこうです。」
メインゲームの先攻1ターン目にサブゲームをプレイし、
そのサブゲームの先攻1ターン目にサブ・サブゲームをプレイする…
「ところでレイちゃん。このサブ・サブゲームの開始ライフは?」
「20点だよー」
「3点のライフを減らすために20点のライフでゲームを?」
「そう、また次の楽しいゲームが始まるんだよ」
「いや、普通にサブ・サブゲームを投了するけど…」
「そっか…アオイちゃんもそうやって最後まで付き合ってくれないんだね…」
(レイちゃん、寂しそうな顔してる…)
(レイちゃんはあのデッキがお気に入りだって言ってた)
(でもそれを使うところを見たことがなかったのは…)
(あのデッキを使ってもすぐに投了されて勝負にならないから…)
「それじゃあ《Shahrezad》を解決。ライフ5点の切り上げた半分…3点失ってね」
「ライフ3点失って、残りライフ2点…」
(決めた、私はもう投了して逃げたりはしない…!)
(ちゃんとレイちゃんのデッキと戦いきって見せる…!)
「余った1マナと手札の《猿人の指導霊》を追放して赤1マナ…」
「TYPE/Zeroで散々見たカードだ!手札から捨てて1マナを生む猿!」
「2マナで《燃え立つ願い》!!」
「あれはウィッシュサイクル、赤の『願いカード』!!」
「知っているのか、ミンメイ!」
「ウィッシュサイクルは今プレイしているゲームの外からカードを1つ手札に加える呪文アル」
「赤の《燃え立つ願い》はソーサリー呪文を手札に加えられる…!」
「私が手札に加えるのは…!」
「机の上にある《ダンジョン突入》!」
「はぁ?」
「え? つまり、このサブゲームを作り出している《ダンジョン突入》を…?」
「そんなことができるのか?」
「できますわ…!MTGの総合ルールにもちゃんと書いてありますの…」
MTG総合ルール
719.4 メインゲームにある全てのオブジェクトならびにメインゲームの外部にある全てのカードは、(特別にサブゲームに持ち込まれない限り)サブゲームの外部にあるものとして扱う。サブゲームに関係していないプレイヤーは、サブゲームの外部にあるものとして扱う。
「サブ・サブゲームが再び…!」
「待てよ…このサブゲームが終わった時、あの《ダンジョン突入》はどうなるんだ?」
「効果は引き続き解決され、カード自体はデッキに加えてシャッフルされるアル」
「それじゃあメインゲームのデッキに再びサブゲーム・カードが再装填されるっていうことか…?」
「それじゃあサブゲームカードを使い切ることはないの…?」
「永遠に終わらないサブゲームの連鎖…それが【千夜一夜物語】…!」
「私は《モックス・ジェット》を2枚置いて黒の2マナを用意するよ」
「再び、超動!《ダンジョン突入》!」
「アオイちゃん、また投了する…?」
「私は決めたんだ…!投了はしない!最後までとことん付き合ってあげる…!」
「それにこれはチャンスでもある。私がサブ・サブゲームに勝てばデッキからカードを探してサブゲームに勝てる可能性がある…」
「それじゃあ新たなるサブゲームを開始するよ。」
「受けて立つよ!」
超次元MTG対戦TYPE/Zeroかじゅある
第一話『永遠に続く試合!エターナルサブゲーム』
サブゲームの連鎖は…終わらない…!
次回、超次元MTG対戦TYPE/Zeroかじゅある
第二話「後手の逆襲!0ターンキル再び」へ続く…