【 #MTG】マローの敗北【テーロス還魂記】
さあ、『テーロス還魂記』のプレビューが始まったね。
プレビュー期間はいつだってわくわくするものだ。
これから待っているブロックのことを類推し、既存のカードやデザイン記事の記述と合わせて読む事でその楽しみは更にふくらむ。
さて、では今回の記事では過去のカードについてのデザインの話を知ることで一見大したことない新カードの見方を変える新しい視点を手に入れてみよう。
次のパックで舞台となる次元『テーロス』はすでに何度か訪れている次元の再訪だ。
テーロスをメインに扱うパックは3つ。
『テーロス』
『二クスへの旅』
『神々の軍勢』
そして他にもマジック・オリジンなどのセットで数枚のカードが登場している。
特徴的なのは英雄・怪物…そして神だろう。
ギリシャ神話をモチーフに神々と定命のものを描くのがテーロス次元の物語となる。
カードのメカニズムとしては「エンチャント」をテーマにしていることが特徴的だ。
テーロスでは神々のいる夜空の世界二クスで生まれたものたちがクリーチャー・エンチャントとしてクリーチャーでもエンチャントでもあるカードになる。
それらはカード枠にテーロスの星空をイメージした特殊枠が使われるのが慣例となっている。
さて、そんなクリーチャーでもありエンチャントでもあるカードの初出は意外にもテーロスではない。
初登場は『未来予知』というパックだ。
カードデザインやその歴史について話す上で非常に高頻度で登場するパックなのでぜひここで知っておいてもらいたい。
この『未来予知』というパックでは「マジックの未来を描く」ことをテーマとしていた。
そのため「タイムシフト枠」というこのブロック固有の特殊カードとしていくつもの真新しいメカニズムを用いるカードが登場した。
これらは「未来のマジックのセットから時を超えて『再録』された」という設定で作られた多数の新カード『ミライシフトカード』だ。
そして、その中にテーロスで訪れる未来を描いたカードが存在した。
そう。クリーチャーでありエンチャントでもあるカードの初登場だ。
《輝く透光》
しかし、あのマローがこのカードに反発していたという話は知っているだろうか?
(マロー…Mark Rosewater。マジックの主席デザイナー)
前回、テーロスを訪れたときの公式記事でその話が繰り返し語られている。
《輝く透光》の初稿は、クリーチャーでないエンチャントの持つような能力を持っていた。
『未来予知』のリード・デベロッパーだったマイク・チュリアン/Mike Turianは、あまりにも複雑だとして単純化のために取り除いたのだ。
エンチャント部分をなくしてしまうとそのカードには何の意味もなくなるとして、私はマイクのその決定に抗った。
ただのクリーチャーで、全然エンチャントらしくない。
クリーチャー・エンチャントは両方らしくなければならない、と。
マイクの決定が通ったのは衆知の通りである。
引用:https://mtg-jp.com/reading/mm/0004242/*読みやすくするために原文にあった括弧内を省略してある
クリーチャー・エンチャントの法則として、それはクリーチャーらしくもあり、またエンチャントらしくもなければならない。
《輝く透光》は確かにクリーチャーらしいが、まったくエンチャントらしくはなかった。
引用:https://mtg-jp.com/reading/mm/0010762/
私がデザインしたときは、全体エンチャントの効果を持っていたのだが、あまりにも複雑だったためデベロップ中に取り除かれてしまった。
『未来予知』を少しでも単純にしなければならないということには私も同意した。
私は、全体エンチャントの効果を取り除いたことで《輝く透光》は台無しになったと感じていた。
私がこの議論に敗れたのは明らかだったが、『テーロス』ブロックでは同じ過ちを繰り返すまいと思ったのだ。
引用:https://mtg-jp.com/reading/mm/0006826/ *読みやすくするために原文にあった括弧内を省略してある
探せば探すほど出てくるんだけど。
マロー、《輝く透光》のこと嫌いすぎない?
《輝く透光》。
マロー
私がそのカードを嫌っているのは知っているだろう?
引用:https://mtg-jp.com/reading/mm/0004246/
やっぱり嫌いなんじゃないか!
マローはクリーチャー・エンチャントは「エンチャントらしい能力」を持ったデザインであるべきだと主張したものの、
マイク・チュリアンに敗れて ほぼバニラと言っていいクリーチャー・エンチャントが生まれてしまった。
だが、マローは後にテーロスを訪れ、無事にクリーチャー・エンチャントをあるべき姿にした。
エンチャントらしい能力を持たせたクリーチャーとしてそれらをデザインして見せたのだ!
特に『授与』能力を持つクリーチャー・エンチャントはわかりやすい例だ。
授与を持つクリーチャー・エンチャントは授与コストを払うことでオーラ呪文であるエンチャントのように単体強化として使える。
そしてオーラは通常、つけているクリーチャーが場を離れると墓地に置かれるが、
授与を持つカードはクリーチャーなので、分離し別のクリーチャーとして場に残るのだ。
これら授与を持つ「二クス生まれ」たちは世界設定上も神の被造物としての意味付けをもって現れる。
マローは今度こそマイクに勝利したんだ!
テーロス・セットについて語る記事でマローは声高にこう言っている。
エンチャント要素もクリーチャー要素も満たす必要がある
《輝く透光》が『テーロス』に入っていないのは、この制約に反しているからである。クリーチャー・エンチャントがクリーチャーでもありエンチャントでもあるということは私にとって重要なのだ。
それらはパワーやタフネスを持っており、攻撃やブロックが可能なので、クリーチャー要素は当然満たしている。
エンチャント部分は、つまり「エンチャントらしい」と感じる要素を持たなければならないということである。
授与を持つと言うことは当然にエンチャント要素を持っていることになる。
引用:https://mtg-jp.com/reading/mm/0004242/
そういうわけで、エンチャントらしい能力を持たないクリーチャー・エンチャントは
テーロスでは収録されることはなくなったのだ。
おめでとう、マロー!
さあ、そんなテーロスを舞台にした新パック『テーロス還魂記』でもクリーチャー・エンチャントは当然収録される!
授与メカニズムは複雑すぎるためか、あるいは前回デザイン空間を使い切ってしまったせいか今回はクビになってしまった。
まあ、そんなのは些細な問題だろう。
さあ、見てみよう!
これが新しい二クス生まれのクリーチャー・エンチャントだ!
テキストボックスには何やら長々とした文章が書かれていて、これがエンチャントらしい長い効果を持ったカードだと一目でわかる。
とはいえ、外国語は読みづらいので日本語版を参照しようか。
ご覧いただこう!
《二クス生まれの狩猟者》だ!!
「嵐は船を西へ流しケタフォスのもとへ。
星明りの下で広野が揺らめいていた。
ケンタウルスはカラフィたちを歓迎し
金色の果実と穀物の菓子でもてなした。」
――「カラフェイア」
フレーバーテキストじゃん!!
バニラのクリーチャー・エンチャントじゃん!!
『テーロス還魂記』のデベロップやデザインで何があったかは定かではないが、
マローの掲げたクリーチャー・エンチャントの理想は敗れ、
再びエンチャントらしくないクリーチャー・エンチャントがパックに入ることとなった。
マロー、再びの敗北である。
とはいえ、ファンとしてはここで1つ期待したいことができた。
ミライシフトカードは「未来のパックから『再録』された」という設定のカードだった。
これまでにもミライシフトカードとして作られたカードが『初登場』したことが何度かある。
バニラのクリーチャー・エンチャントが入れられるということは
《輝く透光》の再録(初登場)も可能なのではないか?
幸いにもテーロスにない固有の地名(ラノワールとかアクームとか)もカード名に含まれてはいない。
テーロスのカードとして不自然というほどのことはない。
長い年月を経て《輝く透光》の『初登場』する瞬間を私たちは見ることができる可能性がある。
《輝く透光》が『未来予知』で予知したのは『テーロス』でのクリーチャー・エンチャントの存在でなく、自身の『テーロス還魂記』での登場だったのかもしれない…。
果たして太陽の女神の使者、《輝く透光》は再録されるのか…?
フルスポイラーを楽しみにまとう!
*追記*
あれ?
これはMTGに関する質問にマローが答える『Blogatog』の投稿だ。
えーっと何々?
Q.前回テーロスに行ったときは『未来予知』の《輝く透光》はエンチャントっぽくないから再録しなかったよね? 今、プレビューでバニラのエンチャントを見たんだけどもしかしてこのセットで《輝く透光》の再録を考えた?
おお、国は違えど同じマジックのプレイヤー。
似たようなことを考える人はやっぱりいるんだね!
マローの解答を読もうか!
A.残念だけどフレーバーが合わなかった。
あわなかった…
あわなかった…
ぁわなかった…
残念だけど、再録のチャンスはなさそうだ。
その後の顛末↓
テーロス還魂記