今回は面白かった小説の布教記事回です。
現在、公式で「全文無料公開」という驚きのキャンペーンが開かれているので
とにもかくにも読んでください。面白かったなら買ってください。出版社が続編を出せるように…
というわけで前回は「感想」を記事にしたのですが↓
今回は「布教」を主目的に記事を書いていこうと思います。
ただし、本編の『ネタバレ』要素を含むため、これから読む本のネタバレは嫌だよ派の人はさっそく読みに行きましょう!
↓
どんな話なの?
ソシャゲ運営お仕事小説。
主人公の新卒社会人 ハトくんの成長物語。
就活に失敗しまくりの彼が唯一採用してもらえた「よく知らないソシャゲの会社」で仕事をしていく話。
どんなところが面白かったの?
物語構成がめちゃくちゃうまかった。
「社会人としての成長物語」だと紹介したんだけど、
この成長の過程の追い方・描き方が本当に巧みで、読みながら自分が今の会社に入った最初の半年くらいを思い返して主人公 ハトくんに重ねて読んで引き込まれた。
途中、もやもやする部分もあって「それ ハトくんが頑張ったことと直接の関係はなく物語がハッピーエンドに進んでない?」という疑問がついて回ったことは隠さずに書いておこう。新卒社会人が企業に対してできる貢献なんてリアルに描けば大したことないものにしかなりえないのだ。
まあ、面白かったんじゃないの(上から目線)
…という僕の感想をぶっ壊す爆弾が最終章に仕掛けられていた。
上記のて「それ ハトくんが頑張ったことと直接の関係はなく物語がハッピーエンドに進んでない?」に対するアンサーを叩きつける最終章の展開が凄かった。
どんでん返しだとか叙述トリックとかじゃあなくて、スパンとスケールの誤認と言うか…
この物語は新卒社会人 ハトくんの成長物語ではあったんだけど、
本当の意味で彼が成長するのは最後の最後。
『最終章での伸び』が半端ない。
『最終章での伸び』というか、そこから感じ取れる『これからの伸び』が凄いんですね。
図にすると…こう↓
左側の成長曲線をイメージして読んでいたので、
右のような成長曲線の物語だったのは意表をつかれました。
最終話がめちゃくちゃアツいので最終話まで読んでほしい!
個性的なキャラクター
『それでも、あなたは回すのか?』の登場人物はかなり個性的です。
お仕事小説としてのリアルさよりも個性的なキャラクターとしての側面が強くて、キャラクター7割と3割のリアリティっていう感じでしょうか。
ライト文芸(ライトノベルと一般小説の間のジャンル)だからこそのキャラクターとリアリティの配分なのだと思います。
キャラ立ての激しい先輩の例↓
「……歓迎」
デスクの向こう、鹿宮さんの隣で立ち上がったその人は、それ以上の言葉を何も話さなかった。縦にも横にも大きな人で、身長は恐らく一九〇センチ近くはありそうで、それ以上に丸々とした脂肪の塊がお腹で存在を主張していた。
「あー、この人は峰さん」と黙った彼の代わりに鹿宮さんが話し出す。
「俺と同じプログラマーだ。峰さんは単語以上は話さないからな。まぁ、その内慣れるだろ」
「了承」
そういうことだからご了承願います、という意味だろうか
ただ、僕はソシャゲ業界にいたことないから分からないだけで案外その手の業界の人ってそういう人がいるのかもしれない…と思うと実はもう少しリアリティが高いのかもしれないですね。
いなさそうで案外いそうに思えるキレたナイフみたいな同期の新人、青塚↓
「そこの同期に言われたので先に言っておきます。私はついこの間、高校を卒業したばかりです。でもそれは、ただ、それだけのことです。私は若いかもしれませんけど、歴史上には私より若い頃からすごい画家はたくさんいますし、少しネットを見れば私と同じような年齢でいいイラストを描いている人だってたくさんいます。別に、すごくもなんともありません。まだ若いのにすごい、とか。そういう余計なことを言って、私にプロのみなさんを見下させないでください。私は実力で採用されてここにいます。以上です」
業界話の面白さ
お仕事モノの面白さとして、普段自分たちが意識せずに扱っている物の制作事情なんかを垣間見れるところがあるわけですが、
『それでも、あなたは回すのか?』はサ終がせまるソシャゲ開発事業部に配属された主人公ハトくんの視点からそういう部分を見れるところも興味深いです。
まだ仕事らしい仕事のできない主人公が自分の仕事の合間にひたすら先輩方の机にエナドリを補給するシーンとか好き↓
火曜日、水曜日とタイムリミットの金曜日に刻一刻と近づいていき、二人のデスクの上にはエナジードリンクの缶がまるでタワーのように積み上げられていく。それを片付けるのと、机に置かれた小銭を取って新しい分を入れ替わりで補充するのは僕が自分からやっていた。それくらいのことはしたかった。
引用:第36話 僕の仕事だ。
なかでも特に印象的だったのは「正しい運営」の話と「魔法の使い方」の2つです。
カスタマーサービス担当の安村先輩から「正しい運営」の話を聞いてプロ意識が芽生え始める32話。
「ハトさん。ユーザーが自己の不注意で消失してしまったアイテムデータの復旧を依頼してきた時、対応する運営と対応しない運営。どちらが正しい運営だと思われますか?」
素直に考えれば、対応してくれる運営なのではないだろうか。
(中略)
「私たちの一日の就業時間は一〇時から一九時までの休憩時間を除いた八時間です。全ての時間を対応に当てたとしても、一六人しか処理はできません。当然ですがその間、他の業務を行うこともできません。新しいイベントの企画や、データの作成といった業務が行えない以上、運営が立ちゆかなくなります」
(中略)
「それなら、その分の時間をより面白いコンテンツの開発に注ぐ。あるいは、より便利で間違いのないシステムを実装して、そんなお問い合わせが根本的になくなってしまうような環境の実現を図る……そうする方が、私はユーザーと運営、その両者にとって有益だろうと判断しています」
丁寧なサポートを行った結果、イベントなどの更新が一切ない、あるいは非常に緩慢なスピードでしか行われないソシャゲになってしまう。それは、確かに正しさのある運営なのかもしれないけれど。ユーザーが望む運営の在り方なのかは──わからなかった。
プログラマーの鹿宮先輩が「1営=1営業日」ごとに組まれたスケジュールを無理矢理進行させるための『魔法』を教えてくれる35話。
でも、どうなっても一日は一営のはずだ。
「うちの勤務時間は八時間だから、一営は八時間だろ?」
「はい」「一日は何時間だ?」
「二十四時間 ……?」「一営の八時間を三倍するとどうなる?」
「……二十四時間です」「ほぅら」と鹿宮さんが中指を立てる。
たぶん、スケジュールという怪物に向けてのファッキューだった。
「いざとなれば一日は三営なんだよ。よく覚えとけ。最高の魔法だぞ」
恐らく誇張されたものでなく、本当に「あるある」として書かれていそうなこれらのパートのリアリティが怖く、興味深かった。
まだまだ紹介したいシーンはたくさんあるが、
全てをこの記事で紹介するのも無粋というものでしょう。
他のシーンの数々はぜひ本編を読んで君の眼で確かめてほしい!
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