ドラフト編1話
前回
TYPE/Zeroあいこにっく最終話
「ドラフト初心者は全勝の夢を見るか」
「レイちゃんのライフ回復デッキも確かに面白かったよ」
「このパックの白にはライフに関連するメカニズムが取り入れられているからね」
「でも、さすがに《セラの高位僧》を切り札にするのは無理があったんじゃないかな?」
「ダメかなあ…《セラの高位僧》」
「面白いカードだけど、使いどころではないな…」
「そんなにダメなカードなのか?」
「いや、カード自体は悪くないけどドラフトで使いこなすのは難しいと言わざるをえない…」
「これだよ、ミドリちゃん」
「初期ライフが20点なのにライフ30点で強化か…」
「初期値から1点もダメージを受けないならまだしも、守りながらさらに余剰のライフを獲得するのはハードルが高すぎるかな」
「もちろん、回復デッキのアクセントとしてならいいんだけど、レイちゃんの場合は高位僧に特化しすぎてたからね」
「確かに、ライフ30までいかなかったなら大したことないクリーチャーだし、そこからライフを削ればまた元の1/1に戻るのは…」
「ん? ミドリちゃん何か勘違いしてない?」
「え?」
「私は確かに負けたけど《セラの高位僧》は最後まで強化された状態だったよ?」
「なっ…ライフ30点の条件をクリアしたのか!?」
(いや、本当に驚くべきは恐らくそこじゃない。)
(条件達成時の《セラの高位僧》は6/6で飛行と絆魂を持つ化け物だ。)
(私の切り札である緑のドラゴン《昇る星、珠眼》ですら5/5。)
(それを上回る切り札を相手にしたうえでアオイはレイに勝った?)
(最後まで…つまり負けたターンの直前まではレイのライフは確実に30点を超えていたことになる…)
(その状態から一撃で試合を終わらせる?)
(20点のライフを一瞬で焼き尽くすチャネルファイアーボールよりも強力なフィニッシュ手段ということ…?)
「それじゃあ、ミドリちゃん。始めようか、決勝戦を」
「相手にとって不足なし! 私の緑黒ドラゴンで真っ向から叩き潰してみせる!」
決闘!
「先攻はもらった! 森を置いてエンド」
「こっちは島を置いてエンドだよ」
「じゃあ、こっちは沼おいて2マナで《星のコンパス》!」
「本当はこういう軽めのマナ・アーティファクトをもう少し集めたかったんだけど何故か少なかったんだよな」
「悪いな、それは俺が3ターンキルの安定化のためにかき集めたからだ」
「くっ、欲しいと思ったカードが他のプレイヤーの戦術と噛みあうと集まらない…」
「これがドラフトか…奥深いな…」
「そう、ドラフトで同じカードを使いたいプレイヤーがいればカードの取り合いが発生する」
「だからね、ミドリちゃん。」
「『被らないカード』は容易にかき集められるんだよ!」
「《思考掃き》! ミドリちゃんの山札を2枚削るよ」
「ライブラリーアウト(山札破壊)戦術…!」
「マナを生むカードや除去カード、ダメージ呪文など…使うデッキが多い呪文は取り合いが発生する…」
「その一方で山札破壊戦術は他のデッキタイプでは使わないカードが多い」
「だから効率よく自分の使うカードを集めることができますの!」
「それだけじゃないよ」
「ドラフトではデッキの枚数は基本40枚」
「初期手札7枚がそこから減るから33枚」
「さらにターンごとのドローでもデッキは減っていく…」
「つまり通常の60枚構築よりデッキが尽きるのは格段に早い!」
「さあ、返しのターン。私は島を置いて2マナで《濃霧の層》!」
「飛行しているクリーチャーも足止めができる壁だよ!」
「セラの高位僧を足止めしたからくりはそれか!」
(デッキがなくなる前に間に合うか? いや、間に合わせる!)
「私のターン、手札から森を置いて」
「土地とコンパスから4マナ!《スランの発電機》!」
「なるほど、確かに同じマナ・アーティファクトでも設置に3マナ以上かかるマナファクトは俺のチャネルボールでは使わない…」
「そして重い分、加速できるマナも多い!これならドラゴンを出すのも間に合うかもしれない!」
「《スランの発電機》は召喚酔いに影響されないアーティファクト。即座に発電機のマナから《清純のタリスマン》を設置してエンド」
「こいつでマナ加速を間に合わせる!」
「いや、私がデッキを削りきる方が先だよ!」
「ランドセット、沼! これが私の切り札《不可視の一瞥》!」
「デッキ破壊枚数…10枚!?」
「デッキの枚数が半分を切った…!」
「さらに、《思考掃き》で追い打ちをかける!」
「だけどまだ、粘れる!」
「私のターン。沼を置いて全ての土地とマナ・アーティファクトから9マナ!」
「早い、4ターン目にして9マナ!この速さなら!」
「たかだかドラゴン1匹出したくらいじゃ、この差は覆らないよ!」
「確かにドラゴン1匹なら、覆らないかもしれない」
「だけどアオイ、この呪文ならどうだ? 《起源の波》!」
「《起源の波》はファイアーボールと同じく費やしたマナの数で効果の大きさが変わる呪文アル! マナがあればXを大きくできる!」
「X=6! 山札から6枚をめくり6マナ以下のカードを全て場に出す!」
「1枚目、《ウギンの末裔》」
「2枚目、《森》」
「3枚目、《沼》」
「4枚目、来た、切札の《昇る星、珠眼(ジュガン)》」
「5枚目、《森》」
「6枚目、…《夜の星、黒瘴(コクショウ)》!」
「ドラゴンが3体…!」
「ドラゴンカードを1ターンの間に展開しやがった!」
「一気に大逆転だ!」
「いや、まだわからないアル」
「《起源の波》は強力だったけれど、その分山札を消費してしまう!」
「残りの山札の枚数は…11枚!」
「かなり危ない枚数だな」
「3体のドラゴンが一斉攻撃しても1体は無敵の《濃霧の層》に阻まれる…」
「つまりミドリちゃんがアオイちゃんを倒すまでに3ターンかかってしまう」
「その間に一度でも2枚目の《不可視の一瞥》があれば先に山札が…!」
「それじゃあ私は3体のドラゴンとクリーチャーを場に並べ…」
「さらにもう1体!」
「マナを使い切っているのに!一体どこから!?」
「それはもちろんアオイが落としてくれた墓地からだよ!」
「墓地にある《刃の翼の虜》の能力を使える!」
「場にドラゴンが出た時、《刃の翼の虜》は墓地より蘇る!」
「追加のクリーチャー! これで1ターン縮んだ!」
「アオイちゃんの墓地肥やしが…! 逆にミドリちゃんのサポートをしたんだ!」
「うーん、流石にこれはお手上げだね」
「一応、沼を出すけど、このターンは何もできないや」
「ターンエンド」
「アオイちゃん…」
「それじゃあ私のターンだな。全員で攻撃!」
「…今、全員で攻撃って言ったよね!」
「しまった…!」
(そうだ、負けず嫌いのアオイが勝負を投げるわけがなかった!)
「《霊気化》をキャスト! 攻撃に参加しているクリーチャーすべてを手札に戻してもらうよ」
「わ、私のドラゴン軍団が…ぜ…全滅めつめつ」
「どう? まだ続ける?」
「デッキの残りは丁度10枚…これ《不可視の一瞥》使われたら負けるな…」
「なあ手札に《不可視の一瞥》持ってる?」
「あるよ」
「グッドゲーム」
アオイ Win!
「アオイちゃん…これはミドリちゃん歓迎の意味もあるイベントだから…もう少しこう…手心を…」
「いや、手を抜く方がおかしくない?」
「ふーん、ドラフトってこの程度の『お遊び』なのね。やっぱり私はスタンダードだけでいいや…とか思われたら嫌でしょ」
「最近分かってきましたが、アオイさんって常識人枠みたいなツラしてましたけど、負けず嫌いが高じて割と難儀な性格なのでは?」
「おっ、長田さんも分かってきた? レイとアオイに挟まれる苦悩が」
「それじゃあ、今回のドラフト大会はこれにて終了!」
「優勝者はアオイちゃん!」
「みんなお疲れさまー!」
「お疲れさまー!」
「これで終わりか…」
「なんだか寂しいな」
「寂しい…ですの?」
「スタンダードのイベントが終わっても、次のイベントでまた同じデッキが使えるじゃん」
「でも、このドラフトデッキはもう次は使えないんだなあ…って」
「ええ。ドラフトは毎回デッキが違う一期一会」
「だからこそ面白いけれどカードとの別れは仕方ないのです」
「まあでも、延長戦ぐらいは。あってもいいんでしょうね」
「せっかく作ったんだからもっとやろう!当たってない人―!」
「そういや、お前のデッキ見てないな。何組んだんだ?」
「私のデッキかい? なら戦って見極めてみるがいいさ」
「アオイさん、デッキ見せてもらってもいいアルか? ファーストピックはどれネ?」
「ファーストピックはフォイルの《不可視の一瞥》。本当はもう一枚取りたかったんだけどなあ」
「流石に《不可視の一瞥》3枚は勘弁してほしいアル…」
「さ、ミドリちゃん! 私の【セラの高位僧】と戦わない?」
ドラフトでのデッキとの付き合いは短い。
イベントのたびに新しいカードと出会い、イベントが終わればデッキは崩す。
それでも出会ったカードとの縁が切れるわけじゃない。
使いたかったまたカジュアルに使う。
ピックしたカードを自分の手持ちのデッキに加える。
40枚のドラフトデッキを軸に60枚の構築デッキへアップデートするのもいい。
普段避けていた「スタンダードじゃないフォーマット」も案外楽しそうだった。
「おう、レイの回復デッキとあたしのドラゴンデッキで勝負といこうぜ!」
「ドラフト、楽しかった?」
「ああ。たまにはスタンダード以外のフォーマットもいいもんだな。色々遊んでみたくなったよ」
「本当? それじゃあさ、ミドリちゃんも一緒にT…」
「それでもTYPE/Zeroは絶対にやらないけどな!」
ミドリは笑ってそういうと、長い付き合いになりそうなお気に入りのドラゴン達に手を伸ばした。
TYPE/Zeroあいこにっく 終
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