さて、今回の記事を書くにあたっての経緯説明。
僕が個人的に非常に高く評価しているMTG関連のブロガーが何人かいるのだけれど、
そのうちの一人が「もち饅頭さん(@AnCovered_Mochi)」だ。
旧枠モダン記事あたりから私は彼の大ファンなのですが、もちさんの最新記事が凄かった。
ancovered-mochi.hatenablog.com
まさにこういう記事が書きたかったし、読みたかった。
自分はちまちまカード1枚について語ったりしていたのだけど、もちさんの記事は分量も内容も充実してて本当に素晴らしいので是非読んで欲しい。
ゆるぼ: シオーナ 元ネタ
— もち饅頭 (@AnCovered_Mochi) 2020年1月12日
イアーソーンとアルゴー号以外にそれっぽいのがあったら
恐らく記事の第2弾のために情報収集しているツイートを見かけて少しやりとりをした結果、もちさんのブログの趣旨には合わなそうなのでシオーナについては、彼の記事では扱わないとのことだった。
お任せします!
— もち饅頭 (@AnCovered_Mochi) 2020年1月12日
バトンを引き継いだので《ピレアス号の艦長、シオーナ》の元ネタについて扱っていこう。
《ピレアス号の艦長、シオーナ》の元ネタをカード化しようとしたのはテーロスを最初に訪れたブロックでのことである。
彼女はいわば『クラーケン枠』のキャラクターだった。
『クラーケン枠』とは何か?
テーロスはギリシャ神話をモチーフにしている。
様々なギリシャ神話の英雄や怪物を元ネタにするカードが存在する。
ミノタウルスやハイドラ、そしてクラーケン…。
クラーケン?
ギリシャ神話にクラーケンは出てこない。
この「ギリシャ神話にいないクラーケン」は日本文化を元にした『神河ブロック』を作った時の失敗を踏まえたものなんだ。
『神河ブロック』にいた忍者や侍は人気が高かった。
一方で、「八百万の神」や「妖怪」にスポットを当てたカードはアメリカではウケが悪かった。
『神河物語』ブロックで得た教訓の1つに、元ネタそのものではなく、プレイヤーがそうだと思っているネタを供給すべきだということがある。実際にどうかということよりも、どう認識されているかということのほうが重要なのだ。
引用:https://mtg-jp.com/reading/mm/0004247/
アメリカやその他多くの海外では八百万の神の伝承はよく知られていないのだ。
元ネタに忠実にしすぎても、知らないプレイヤーが置いてけぼりになってしまう。
多少、間違った認識でもSamuraiやNinjaの方が親しみやすくセットを豊かにするんだ。
元ネタに正確すぎるデザインよりも、「よく知られた勘違い」に添う方がより芳醇で親しみやすいトップダウンセットになる。
おお、クラーケン、ギリシャ神話の偉大な怪物よ。
ほんと? ウソ。
クラーケンは実際は北欧神話の存在である。
しかし、有名な映画「タイタンの戦い」の見せ場で出てくる怪物もクラーケンと名指しされている。ということで、クラーケンなのだ。
引用:https://mtg-jp.com/reading/mm/0004247/
こうして北欧神話のクラーケンは、ギリシャ神話を題材とする映画『タイタンの戦い』にクラーケンが出てきた…というポップカルチャーの要素からテーロスの一部として組み込まれるようになった。
最新のテーロス還魂記でもクラーケンは元気にテーロスで暮らしている。
ポップカルチャーの存在を登場させる。
それはたしかに「ギリシャ神話そのもの」を描く上では問題がある間違いかもしれないが、
「ギリシャ神話を元ネタにするオリジナル世界」を作る上では良いスパイスになるんだ。
《ピレアス号の艦長、シオーナ》もそういうポップカルチャーが元ネタだ。
一体、彼女の正体とは…
ババーン、ワンダーウーマンである!
え?
ワンダーウーマンである!
えっと、多分説明が必要だよね?
ワンダーウーマンはいわゆる「アメコミヒーロー」だ。
スーパーマンやバットマンなんかと一緒に戦うジャスティスリーグの一員で、相手の攻撃を逸らす不思議な腕輪と悪者を捕らえる金の投げ縄で戦う女ヒーローである。
ワンダーウーマンはギリシャ神話に出てくるアマゾーンの女王、ヒッポリュテの娘…という設定である。
ヒッポリュテはFateシリーズの作品で登場するアマゾーンの女戦士なので、そっちの方面のオタクにはぎりぎり名前が知られているかもしれない。
Fateでアマゾンと言うとノータイムでFGOのアマゾネスに繋がる人が多いと思うけど、一応はっきり書いておく。
アマゾネスCEOのことではない。
確かにCEOはFateのスマホゲーに出てくるアマゾンの戦士だけどそっちじゃない。
別のFate関連作品に出てくるサーヴァントだ。(かわいい)
Fate/strange Fakeにサーヴァントとして出てくるアマゾネスの女王がヒッポリュテである。
好評発売中の最新6巻試し読みにも出てくるぞ!
6巻の試し読みはこちら
ヒッポリュテはCEOの姉なので、アマゾネスCEOはワンダーウーマンの『叔母』ということになるかな。
(この辺、ワンダーウーマンの出生周りの設定が二転三転してるので濁しておく)
実はテーロスに初めて訪れた時、開発部はワンダーウーマンのカードをデザインしようとしていた。
その時のカードがこれだ!
〈ワンダーウーマン〉
伝説のクリーチャー ― アマゾン・スーパーヒーロー
3/3
:[カード名]を対象とする、呪文1つか能力1つをを対象とし、それ(訳注:「の対象」が抜けているものと思われます)を変更する。
: クリーチャー1体を対象とし、それをタップする。それはそれのコントローラーの次のアンタップ・ステップにアンタップしない。
引用:https://mtg-jp.com/reading/mm/0010762/
テーロス三部作目のリードデザイナーであるイーサン・フライシャー/Ethan Fleischer が、このカードに与えた能力のデザイン理由は以下の通り。
1つめの能力は、彼女のブレスレットの、投射物(コミックでは弾丸など)を跳ね返す能力を表している。
2つめの能力は、彼女の持つ黄金の投げ縄を表している。
引用:https://mtg-jp.com/reading/mm/0010762/
完全に「自分の好きな漫画やアニメのキャラをカード化しよう!」というオタク君がやるやつである。
残念ながら、このカードはボツになった。
(当たり前だろ!)
そして、このカードに対して「カラーパイ」の観点から問題があったことも指摘されている。
ここでいうカラーパイは「色の役割」の話でなく色ごとの思想とキャラクターの性格についてや世界設定における色の振り分けについてだ。
元ネタであるワンダーウーマンは白緑のキャラに分類されるだろう。
(動物たちと心を通わせ、自然のままの愛のために戦う正義の戦士だ。)
だが、このカードは青と白。
加えて、テーロスには女戦士の都市国家「セテッサ」があるけれど、生粋のヴォーソス(フレイバーを大事にするプレイヤー)であるデザイナー、ダグ・ベイヤー/Doug Beyerいわくセテッサの住人は緑白に割り振られる。
青白の伝説クリーチャーはふさわしくない。
出典:Are Akros, Setessa and Meletis all associated with...
さて、テーロスを舞台にしたパックはいくつも発売された。
その中で元ネタとして使えるギリシャ神話の要素も大量に消費した。
テーロス還魂記ではワンダーウーマンに ようやく お鉢が回ってきたのだ。
とはいえ、ワンダーウーマンそのままというわけにはいかないだろう。
それはテーロスの世界になじむように作られているはずだ。
まず、ワンダーウーマン自身のキャラクター性とテーロスの女戦士の扱いに従い、
緑白のクリーチャーとしてリデザインされることになる。
《ピレアス号の艦長、シオーナ》のカードこそ、ついにMTGの世界に実装されたワンダーウーマンに違いない!
では、MTGにおける彼女、シオーナについて見ていこう。
彼女は緑白の伝説のクリーチャーだ。
恐らく森に囲まれた緑白の都市国家セテッサの女戦士で間違いないだろう。
森に囲まれた都市国家セテッサ…
ん?
ピレアス号の艦長?
森なのに船乗りなの?
それにイラストでは彼女の一団に男性も描かれているのが見てとれる。
彼女は女性だけが存在するアマゾンの戦士ではないのか?
これについては現実の(そして伝承の)アマゾーンについてでなく、テーロス世界におけるセテッサの文化背景を知ることで推測することができる。
セテッサの人口は主として女性と子供からなる。
結婚の風習は存在せず、資産は共有のものとなっている。先祖は母系に辿られる。
セテッサの住人達が最も重要視するのは子供達の幸福である。
セテッサにも男性はいるが、ほとんどは都市の端にある動物達の訓練場、アマトロフォンの近くに住んでいる。
男性は年若いうちの「遍歴」、世界を放浪し母親から離れて家となる場所を探し求める実践が奨励されている。
女性は戦争の訓練を受けることによって、男性は世界で自身の道を見つけることによって英雄になると信じられている。
オーフィス塔(蛇)
:この塔はケイラメトラ神殿近くの自然の空間に隠されている。
戦士議会のために身分を隠して旅をし、情報を集める放浪の戦士や間諜達の本拠地としての役割を担っている。
彼女らは旅を始めようとする若者達へと助言をしたいと願う共感的な家族のように、「遍歴」のための道を探し出す。
オーフィスの戦士達は行方不明の、または捨てられた子供を探して彼らをセテッサへと連れ帰る。
彼女らの指導者は子供の頃に奴隷に売られたカリアスである。彼女はオーフィスに助け出されてセテッサへと連れて来られる前に片目と指を何本か失っている。
引用:プレインズウォーカーのための「テーロス」案内 その2|読み物|マジック:ザ・ギャザリング 日本公式ウェブサイト
というわけで恐らくシオーナは女戦士ワンダーウーマンを元ネタとした「森林都市セテッサの女戦士」であり、セテッサにある「動物の名を冠する4つの塔」のうち、『蛇の塔、オーフィス』所属の戦士。
森から旅立ち、船で世界を巡り、セテッサの男たちを外界の『遍歴』へと送り出し、英雄としての道を進ませ、外界の孤児たちを保護してセテッサに連れ帰る…
そう言った立場のキャラクターなのだろう。
彼女にはワンダーウーマンのような「防御の腕輪」や「黄金の投げ縄」はない。
しかし、オーラを探し、兵士を育成する力を持っている。
テーロスにおけるオーラは神の恩寵や試練を表す。
セテッサから外海へ旅立つ男たちが自分たちの試練を探す遍歴の手助けをする、それをオーラ・エンチャントを探す効果として表現しているのだろう。
兵士トークンを生む能力は 遍歴の旅で出会った孤児を保護してセテッサへ連れかえり、『獅子』のレイナ塔で兵士として育てあげる能力に違いない!
このセットの兵士トークンは…女性だ。
彼女はきっと立派に育ったセテッサの戦士なのだろう!
(服装がイロアスっぽい? 知らんな)
シオーナは「ワンダーウーマン」を元ネタにしてこそいるが、
はっきりとテーロスと言う世界に息づくキャラクターになったんだ。
今週末にはもうテーロス還魂記はプレリリースを迎える。
さあ、芳醇なギリシャ神話…そしてポップカルチャーでのそれらを元にした懐かしの次元を再び訪れよう。
あるいはあなたにとっては、これが初めてテーロスを訪れる機会になるかもしれない。
ようこそ、テーロス…怪物と神々と英雄(スーパーヒーロー)の世界へ!
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その他 テーロス還魂記